上場株インパクト投資の研究 3章(5)
資産運用業界の仲間たちと一緒に、「インパクト投資を上場株に適用する」をテーマとして研究を始めました。スマートフォンアプリのClubhouse上で毎週様々なディスカッションを行っています。皆さまも是非ご参加ください。また本ブログではこの議論の内容をコンパクトにまとめて皆様にお送りします。
リンク:「上場株でのインパクト投資」常設クラブ(Clubhouse内)
7月14日は、お昼の 12時より Clubhouse Meeting を行う予定です。
上場株式でインパクト投資 3章 3回
2021年5月26日
(このブログは毎週水曜日に、クラブハウスでオンエアしている“上場株でのインパクト投資”を綴ったものです)
MC
では、今日はまだKさんが接続していないし、前回最後にTさんが上げてくれた事例で議論したような、これまで投資してきたケースで、気候変動のポジティブインパクトのKPIをうまく企業価値向上になるように設定できた、あるいはできなかったケースについてHさん、お話しいただけませんか?
Hさん
自動車業界についてちょっと話したいなと思うんですけど。自動車業界はCO2などの排出量の規制があって、その達成に向けてどの会社も努力していますが、その時日本の会社って、自分たちがEVカーや、燃料電池の技術力や販売目標はどうですみたいな説明はできているのですが、その場合にコストがどう変わり、企業価値がどう変わるかについてあんまりうまく説明できていないと思います。“環境に良いこと”だからやるし、やらなきゃいけないという説明はされているんですけど、企業価値につながる部分になると長期的な説明になっていないわけです。同じようなことは他も業界でもあるかもしれませんが。たとえば同じEVやっているといっても、テスラなんかだと、自分たちのプロダクトがなぜその価格で受け入れられるかが明確に説明できていると思っています。つまり彼らは顧客目線に立ってなぜそれが受け入れられるかの説明が出来ており、それが不可欠だと思います。例えば私が数年前に、オランダに行った時の感覚ですとタクシーの半分以上テスラという感じでした、これはウーバーでもです。理由を運転手に聞いてみるとテスラは売値と買値と、何キロ走ったらキャッシュフローがどうなるっていうのが電気なんで完全に読める。他の自動車を買うとガソリン価格も動くので、買う方からしても商用車であれば利回り的にテスラしかないということが明らかだという事を運転手自身が説明してくれました。つまり消費者側の計算もでき、それによって何台売れるかということも明確にある、それが説明できているのです。その辺を自分はエンゲージメントしていきたいと思います
MC
ありがとうございます。Hさんが言いたいことよくわかります。自分も数年前気候変動のことを国内の投資家の集まりで話すと必ず“気候にいいことだからといって、企業がそれだけやるのでいいのか?!”みたいな言われ方をして。でもその頃ヨーロッパではまったくそういう捉え方ではなくて、まず燃料費が安いからとか、メリットが前面的にでていたので随分ギャップがあるなと思っていました。日本の自動車会社は説明は確かにうまくありませんが、消費者の側は必ずしもそうではないのかなって思います。自分もプリウスを10年以上乗っていますが、燃料費も全然違うし税金も違います。でも国内でプリウスタクシーですらあんまりみかけなかったですが、ヨーロッパではテスラが出てくる前はタクシーならプリウスだけっていう時があったのに。国内ではなにか他のハードルがあるんじゃないですかね?コストや利益に対する執着であれば、国内の産業も相当あると思うんですけど。税制や燃料費など全体的に環境車のほうが今でもメリットはありそうですけど、まだ足りないとか。また日本の自動車会社は消費者の嗜好はかなりしっかり抑えていると思うんです。だから国内では消費者のニーズがまだ少ないのかな・・・
Hさん
あ、そうです。利益については追求していると思います。ただそれを企業価値にリンクさせて投資家に説明できてないし、お客さんに対しても、いったいそれがどういう経済的なメリットがあるかも、あんまり説明できていないと思います。
MC
Kさん、やっときました。よかったです!
Kさん
すみません、寝坊しました。
MC
遅くまで仕事していましたか?今ちょうど前回の復習とこの前Tさんが出してくれた事例のように、気候変動にいいことをKPIにしていて、それが企業価値とちゃんとリンクしたケースがあったかなど事例を紹介していただけますか?
Kさん
そうですね。一件、北陸の会社で、自分で重油をたいて発電している会社があったのです。発電だけじゃなくて熱もえられてコストがかなり下げられたのです。それが会社のメリットだとアピールされていたのですけど。私も10年ぐらい前はわからなかったんですが、やっぱりCO2の問題からこれを続けていいのかということになり、やっぱり重油をたくのやめるしかないのかなと、会社の方も気がつきまして。今重油からLNGに変える取り組みをしています。それでもまだCO2でるのですが、それでもだいぶ抑えられますし
MC
つまり、最初はコスト削減という企業価値への向上ということで見ていたと。しかしその後それを昨今の社会的な議論から見直そうということについて・・・Kさんはエンゲージメントをしていた?
Kさん
うーん、エンゲージメントまではしていなかったかもですが、話せばその話題がでていました。社内でもそういう議論になって。
MC
やっぱり環境の問題って投資家だけで話を推し進めるのは難しいのかもしれませんね。
Tさん、今の事例についてコメントもらえますか?
Tさん
あの、まあなんでしょうね。やっぱり気候をテーマとした時、CO2の削減量とかがKPIになるのかという意味においては、キャッシュフローと連携して、論ずるべきというお話しだと思うんですけど、それは大いにアグリーです。ちょっと思い出したのですが、過去に投資していた企業についてもうひとつ事例を言っていいですか? 温暖化ガスの排出を抑える上で非常に有効なエアコン用の化学材料を作っている会社の話です。事業内容的にはグローバルでみてもESG投資のスタンダードになるような会社でした。ただ、この会社の良い社会的インパクトを継続的にするための経営課題は何なのかを考えた時に、重要だと思ったのは良いインパクトを持つ製品をいかに安定供給するか。という事でした。彼らしか作れない製品であることから、お客さんは彼らの作っている材料を少しでも買いたい。しかしただ買いすぎると顧客側で在庫が積み上がり需要がなくなる時期も出ます。
結果として堅実な経営を志向する彼らは投資に対し及び腰になっていました。そこで我々が提案したのは需要予測精度の向上です、数ヶ月から一年を見越した需要予想ですね。その手法について提案し、さらにそれに基づいてきちんと設備投資をしませんかと提案しました。私はこの会社はCO2を減らす良いインパクトはあるのですが、彼らにとって大切なKPIはCO2の削減ではなく、適切な設備投資や生産の平準化であると思っており、それがきるかみたいなところをモニタリングしてきたのですが・・・やっぱりKPIって個社独特だと私は思うのです
MC
ありがとうございます。今の話も気候変動のインパクトと、実際のKPIが違うという重要な例だと思うのですが、気候変動のKPIが難しい例なので、ちょっとHさんとKさんの話に戻っても良いですか?
Kさんのおっしゃっていた例は規制とか出てこないと、コスト的にメリットがあっても会社の収益モデルに影響が出てこないわけですよね。社会が何も言わなければ今のままの方がいいかもしれない、規制が厳しくなり炭素税が乗ったりしないと数字としては見えにくいということですよね。そしてHさんのケースは消費者の意識だとか色々なものあって、
もちろんHさんが言っていたように会社が消費者にメリットをしっかり説明することも大事ですが、自動車の場合環境車が売れるとダイレクトに社会にインパクトも企業価値も上がると思いますが、これもまた個人の嗜好だとかに影響を受け、また自分の場合も税制などの差がすごくなければ躊躇するかもしれないと思うのですよね。だから政府が“今年からハイブリッドカー値上げ!EVカーだけ!”と言うかどうかってものすごい影響が大きいと思うのですが、どうでしょう?
Hさん
本当にそこが難しいと思います。企業は今の政府の税制とかにあわせて販売戦略も考えるし製品を出して行くわけです。ただEVはハイブリットと異なり走行中に出すものにかぎればCO2がゼロになるわけです。ハイブリットや燃費の良いガソリン車の場合は減らすって事が出来ても計算式も複雑になる。だからゼロだっていうのが大きいと思うのです。企業の選択も過度的なのかどうかは重要です。Kさんのお話にもありましたが、その時の規制にあれば、コスト的にOKみたいな考え方はあって、でも過度的なものに投資する場合は変数が複雑になるので長期投資の我々には難しいものがあると思います
Kさん
規制との関わりでいうと、正直規制のほうがアクションが早いと思うのです。やらなきゃいけないからやりますよっていうのは、誰に対しても言いやすいです。そのための投資の決断もしやすいです。でもまだ規制が入る前の段階でやっていくには「なんでやるの?」ということになります。「まだハイブリットカー売れるのじゃない?」という時、全部EV
に替えていくっていうのは、政府の支援もあまり受けられないでしょうし、反対を押し切らないといけないというのもあると思います。でも今の社会は変わりつつあり、そこで消費者の声って大事だと思います。だからまだ重油で発電しても良いよねと言われても、考えていかなきゃいけない、と思っています
MC
ありがとうございます。Tさんいかがです? すみません、さっきはTさんがまた出してくれた事例を飛ばしてしまったのですが
Tさん
「いえいえ・・・うーん。またお二人の話を聞いていて違うことを考えてしまったのですが、社会の動きとか、規制で変わって行くというのは事実なのですが、ぼくたちがインパクト投資っていうのを考えた時、それらの変化を読んでいくことも重要ですが、自分たちのフィデューシャル・デューティとしては、どれだけ主体的に変化を起こせるかということを考えるべきじゃないかと思っていて。また規制などが変わったとしても、何か自分たちが考えたことを達成できるような、比較的短期のアウトカムともあるべきじゃないかと思ったのですが
MC
はい、ありがとうございます。そうですね・・・あのまた話のコシを追ってしまってすみません、ここで質問が来たのですが・・・。あと5分ですが、話せるところまで話したいと思います。えーいただいた質問は、東京ガスのケースです。気候変動に対応するために、資本配分を替えて行く、つまり何か資本投資をするという時に、必然的に配当がへるわけですが、こういったことに長期の投資家はどう考えるべきか、ましてや“気候変動の対応をしなさい、しなければダイベストメントしますよ”と言ったような投資家は本来どうずべきか。みなさまどうお考えになりますか?」
Kさん
「投資家は社会の中にいる存在だと思いますので、社会の動きをみながらやっていかざるを得ないのかなと。重油の発電のケースは10年以上前ですが、当時私も悪いことだと思わなかったのです。効率が高まって良いのじゃないかと思っていました。その考えが変わって行くのは重油で発電するならCO2がたくさん出る、だから天然ガスのほうがいいのじゃないかとか、それは社会の変化の中で私自身も変わって行ったというのがあるのかなと。だから考え方を替えて行くためにどうしたらいいのかは自分なりに考えていかないといけないと思います
MC
ただ私は、Kさんは投資において、配当政策は厳しい方だと思ったのですが・・・。重油で発電していた会社がLPGに置き換えたら一時的に投資のコストがかかるでしょうし、オペレーショナルにも高くなるかもしれない、それは株主へのリターンを減らすかもしれない、ということについてはどうでしょうか
Kさん
でも経済的価値といえば、それによって消費者が反発し売り上げが減ったら困るわけだから・・・あるいは従業員が離れていってもマイナスだし。企業は社会の中でどうやって認められて行くのかを考えなければならないのかなと思います。
Hさん
私はこれってシンプルな話だと思っていて、彼らが行った投資が企業価値をあげたらいいと思うのです。配当まで削って投資して、それで企業価値が上がらないのだったら当然それはマイナスです。今は金利すごく低いので、配当で出すより、ちゃんと投資して企業価値があがればその方がプラスになるはずです。
Tさん
私も来週お話しできたらと思います。投資をやるかやらないかは、生き残りをかけたクライメート対応への経営判断として話す話かもしれませんが、何でファンディングするかとは別の話で。例えば配当を維持してその投資ができないかというのはガバナンスの問題だと思います。
MC
では続きは来週話しましょう!
続く