上場株インパクト投資の研究 3章(6)
資産運用業界の仲間たちと一緒に、「インパクト投資を上場株に適用する」をテーマとして研究を始めました。スマートフォンアプリのClubhouse上で毎週様々なディスカッションを行っています。皆さまも是非ご参加ください。また本ブログではこの議論の内容をコンパクトにまとめて皆様にお送りします。
リンク:「上場株でのインパクト投資」常設クラブ(Clubhouse内)
7月14日は、お昼の 12時より Clubhouse Meeting を行う予定です。
上場株式でインパクト投資 3章 4回
2021年6月2日前半
(このブログは毎週水曜日の12時からクラブハウスでオンエアしている“上場株でのインパクト投資”を綴ったものです)
MC
では、今日は前回の続きから、気候変動対応を行うために配当を見直すといった東京ガスの事例について話していきましょう。前回も少しお聞きしましたが、一週間たってご意見も変わったかもしれませんので。
Tさん
そうですね、一瞬思い浮かべたのはダノンのCEO解任の件で、報道も見たのですが投資とESGが二律背反的に語られている良くない例だなと思いました。東京ガスさんが上場企業として果たさなければならない長期戦略の説明責任、そこにESGをどう絡めていくかという必然性の部分とそれに対する資本政策の課題がごっちゃに語られているという気がしました。マスコミが極所だけをとりあげているような印象がしました。
MC
ニュースとしてはそうですが、Tさんはどう考えますか?たとえばTさんが投資先の起業が予定外にそういってきたら、“いいこと言うねえ”っていうか・・・
Tさん
うーん、たぶんそのお話が出る前に十分コミュニケーションしておくべきなんでしょうけどね。(笑)もし期待するインパクトを強化していくうえで、インパクト強化のための追加投資が結果として企業価値を下げるのであればインパクト投資としての要件を満たしていないわけで、投資を始める前に見誤っているということだと思いますので。
MC
Kさんはどうですか?
Kさん
一時的に業績が悪くなることはあり得るのかなと思っています。いろいろな会社で今後起きてくると思います。そうすると株価評価としてマイナスになることもありうると思います。将来的にこの会社が強くなれるかどうか、炭素税の支払いもあるかもしれないし、消費者から好かれ、売り上げが伸びそれがプラスに働くなら応援していいんじゃないかと。今後5年とかで考えたらマイナスになることもあるでしょうし、NPVも下がるかもしれないけど、容認しないといけないのではないかと思うのです。でも東京ガスについては、今まで配当をずっと上げてきて配当性向も6割あって“配当でみてください”とマーケットに対し言い続けてきた会社だと思うのです。それが今年は決算でも“配当増やしてきました”というグラフも入れていないし。投資が必要だということは前からわかっていたでしょうし、急に方針を変えると、配当がいいと思っていた人は怒って売るでしょうし、経営に対する信頼性はちょっと落ちるのかなと思います。
MC
あの、でも東京ガスさんにとっては、ガスの会社ですし何か対策しなければいけないとなると、なんらかの資金を用意しないといけないわけですよね。単に説明が足りなかった?
Kさん
でも、説明が足りなかったというのはおかしいのかなと思っています。短期的に経営を考えているのであればあるかもしれませんが。長期的に考えて配当性向もあげてきた会社のはずなのに。本当は長期的に考えてやっていなかったのではと思ったりします。
MC
もしかしたら逆に、配当が(だけが)いい会社って言わないほうがいいってことなんでしょうかね。東京ガスだったらどうしたらいいのかなと。
Kさん
それだけがいいわけじゃないけど、そのようにコミュニケーションをしてきたので、そこを変えるのであれば徹底的にコミュニケーションすべきだと思うんです。
MC
うーんそうですね。ではHさんはいかがでしょう
Hさん
東京ガスについては完全にコミュニケーションの失敗だと思っています。2020年の3月に中計を発表していて、2022年までに何をやるか明確に説明しています。それは2030年に向けてのビジョンがあって、その中で何をやるべきかになっていて、その中で2022年までは総分配性向(連結純利益に対する配当と自社株取得の割合)を各年度60%に定めています。ところが、今回配当削減の可能性を発表したものは“コロナ禍をふまえた東京ガスグループの経営改革”になっているのです。コロナ禍っていうのは理由として不誠実ですよね。コロナ禍ではなくて、環境に対する社会の認識が変わったとか、バイデン政権の誕生とか日本政府の目標が変化に対して早期の投資が必要だから変えると直接言えばいいのに。そうじゃないから投資家は怒ったのだと思います。
それに昨年の決算発表時にも年間の業績予想を発表していなくて、この時もコロナ禍でわからないという説明だったのですが、レストランとか小売りならともかく、東京ガスさんのようなビジネスで、コロナ禍で需要が読みにくいって、たぶん限定的じゃないですか?コロナをいろいろなところで理由にしすぎている。その辺に対する不信感がでたんじゃないかと思います。
MC
今Hさんが“でたんじゃないか”というのは株価が下がったってことですよね。
Hさん
そうそう、そうです。投資家がNoといったという論調になっているのでけど、投資家は環境投資をすることについてNoといったわけではないと思うのです。コロナを踏まえて環境投資しなければならない、というのはちょっとわからない。
MC
たしかにコロナをつかって、関係ないと思われるような産業がやたら減損したり、減配したりということが起きていましたよね。そういう経営のやり方自身には長期投資家としてはNoを突き付けないといけないですよね。
Hさん
うん、ただネットゼロって言われたから、って書いてくれればいいと思うんです。何度もいいますが、タイトルが「コロナ禍を踏まえた・・・」ってとこだと思うんです。
MC
そうですね、今Hさんがおっしゃったように株価が下がったんですよね。Kさんがいったように、東京ガスは特殊で、配当が非常に高いことで投資家が計画的に持っていて、そこで急に下げられたら困るというのがあるかと思うんですが、そういう時に長期にインパクト投資を目指している時は、前回のシリーズで短期的な株価の変動は気にしないという議論をしたと思います。ところが、多くの投資家が長期の企業価値、もしくは経営姿勢に対してネガティブな反応を示したということになるのだと思いますが、こういう時はどういう風に行動をとりますか?
Tさん
うーん、スパンの長い話なので、まだ分からないと思うのですよ。長期でみれば結果的に戦略としても株価としても評価される「かも」しれない。でも基本的にはHさんとかと同じで、よく説明しないといけない、そして戦略は一貫性がないといけない、投資家としてのエンゲージメントを問われるならそれを促すと思います。みなさん統合レポートなどを一生懸命書かれており、そこでは財務と非財務を組み合わせた目指したい将来が見えると思うのですが、今回のケースをみると、やっぱり財務戦略と、ESGを含めた将来に向けた経営戦略がどう結びついているか一貫性がないように感じられ、不信感が出ているのではないかと思います。例えばこの会社はROEがずっと下がっていて、それが配当を強化していくことで資本効率を維持していこうという戦略を取っておられるに見えたんですが、今回の話は、そことの一貫性がありません。もちろん企業としてのNPVを下げてまでやるんだということは会社の判断としてはあるのかと思いますが、そこに対しては投資家はNoだと言っているんじゃないかと思うのです。会社の説明は“生き残りのために環境対策が必要です、今やらないともうだめです”という書き方をされているのですが。環境対策がきちんと企業価値と結びついていない感じがしました
MC
つまり、今回の説明だと、今回多少減配しても最終的に企業価値はあがるのだという、そもそもの計画が見えていないということですね
Tさん
ひょっとしてまだ考えておられないような・・・ESG戦略が経営戦略としっかり結びついていないような。「生き残りのため」とおっしゃいますが、本当に生き残りについて考えていますか?みたいな。
MCさん
生き残りのために必要といいながら、あまり練れていない計画をだしたような?
続く