10月に引き続き第三回目のコーポレイトファイナンス勉強会を11月27日(水)に開催いたしました。会場として引き続きあおぞら銀行様のホールをお借りし、今回は「ROIC経営再考」をテーマに約40名の参加者各位と同問題について議論しました。当日の様子は、あおぞら銀行様の開示にも詳細にまとめて頂いております。
エンゲージメント投資先を招待し「ROIC経営再考」の勉強会を開催(出典:あおぞら銀行様)
さて今回。前半は第一回・二回の振り返りから始め、資本コストやPBR問題に関する理論的な背景や誤解について確認しました。その後本題であるROIC経営について、その意味する事、経営実装に際して留意して頂きたいこと。また陥りがちな誤解などについて解説を行いました。
具体的には、ROIC経営の導入にあたっては、FCFの増加・それに伴う企業価値の増加を中核に据えるということです。ROE向上のような「率の経営」の手段とするのは誤っているということを明確にお伝えしました。また、前二回までに一貫してお伝えしてきた資本コストの考え方から、全社平均のWACCとROICとの比較は誤った結論を導出する危険性があるので避けるべきとの考えを説明いたしました。あくまでも、事業毎にリスクが異なりそのリスクに対応する資本コストとの対比でなければならないということです。 そして、過去からの結果であるROICと将来得られるFCF流列から構成される事業価値とを結びつけるROICバリュードライバー式もまた一つのモデルであること、配当割引モデルや残余利益モデルを現実と思ってはいけないのと同様に、ROICとWACCとの対比もモデルの前提を理解した上で経営に適用していくこと、特に、将来獲得されるFCFが増加すると考えるならば、短期的にROICが減少するとしても投資をしなければならないことを説明しました。ROICを高めるだけではだめで、成長のための投資を行い、投下資本を増大させていく、企業価値を高める経営を中核に据えた企業改革を目指さなければならないというのが、お伝えしたかったメッセージです。
後半は前半の理解に基づき、TOPIXに採用されている上場企業を対象に、投下資本やROIC、成長性といったパラメーターに着目し、企業価値(ここでは株式時価総額)との関係性を過去約10年のデータを分析し検証いたしました。結果、長期で見ると投下資本、ROIC、成長性のいずれをも高めることができた企業群が最も企業価値の上昇幅が最も大きく、反面、いずれもが低下している企業群は企業価値の低下幅が最も大きい結果となりました。これらは、前半の理論編で企業価値計算のモデルとして挙げたバリュードライバー式で導かれる示唆と同様の状況となっています。加えて、ROICを経営指標として採用している企業は、特にROICが低位の企業群で、非採用企業に比べ企業価値の上昇幅が大きい傾向が見られました。これらは、ROICが低い場合、ROICの導入自体が企業評価に何かしらプラスの影響を与えている可能性を示唆しています。今回、講義の内容としては、市場全体の話をさせていただきましたが、参加いただいた皆様の感想等を伺うと、それぞれ自社の状況に照らし合わせてROICとどのように向き合っていくべきか、考えを巡らせていただけたようでした。
勉強会後は、恒例通り飲物を手に参加者各位での交流を行って頂きました。三回目という事でお顔見知りになられた方も増え、また時間を作り関東圏以外からも駆けつけて頂いた参加者もおられ、和気あいあいとした良い会になりました、日頃上場企業の経営・IRの第一線で働かれる参加者各位の横の繋がりに資する事が出来ればと願っております。次回は年明け2025年1月に特別会としてROIC経営に実際取り組まれ、大きな成果を上げておられる企業の経営者様をお招きして、少し大きな会を予定しております。また本勉強会における考察については別途本ウェブサイトで共有させて頂ければと思います。