書を捨てよ

「書を捨てよ、町へ出よう」という寺山修司さんの評論集があり、私はこの言葉が好きで、旅に出ることは投資においてとても重要な活動であると考えています。

投資において非常に大切な事の一つは「本来の企業価値と市場がつけた価値とのギャップを見つける事」です。
ちなみに我々はこのギャップを「価値創造ドライバー」と称しているのですが、所謂合理的市場仮説なるものが主張するようにこのような「価値創造ドライバー」を見つけることは容易な事ではないのです。そして、このギャップを見つけるヒントとなるのが「常識を疑う」事であり、「旅に出ること」はこのための重要な活動の1つであると考えています。

つい先日も、あるBtoCサービス企業様への提案を行うために北米へのリサーチトリップに出かけました。
リサーチの主眼となるのは当該企業様のサービスが展開可能な都市・商業地域についての仮説を作る事で今回は10日間掛けて米国・カナダの都市を周り、数多くのモールやダウンダウンを訪ね、取材を行いました。総計でレンタカー800マイル(約1,500キロ)、歩いた距離100キロ程度と中々ハードな視察になりましたが、不思議と疲れはなく学びが多い楽しい旅でした。

従前に入念なデスクトップリサーチなど事前調査や仮説を創っており、いくつかの都市や商業施設についてのリサーチ結果は事前の調査と合致するもので喜んでいたのですが、ある街については事前の予想を覆す結果を得る事となりました。
それはカナダのトロントでした。
トロントは極めてコンパクトな街で事前のデスクトップリサーチでは商圏人口の集積度において大きな魅力を感じられなかったのですが、お住まいの方や訪問された方なら当然ご存知のように、同市は中心部に世界一とも言われる巨大な地下街を有する街だったのです。
新宿から渋谷にかけての地域に匹敵する広大な地下街とそこに蓄積される商業インフラの存在を訪問により初めて認識しました。ちなみにこの訪問には、当該企業の在米国・海外御担当の方も同行されたのですが彼も全く認知していなかったとの事でした。

もちろんこういったアドホックな情報が経営に大きな影響を与えるとは思いません。
しかし、この偶然が無ければ同社は将来の潜在的な展開余地を有する北米の一都市を見落としていたかもしれないのです。文献やインターネットなどでの基礎リサーチは大前提として、その常識をうのみにしてしまってはいけないという良い事例でした。

このように、自ら仮説を立て、足を使ってそれを検証する事は、非効率的にみえるかもしれませんが、情報窓が広がり事前に想定していない貴重な情報や経験が生まれ、そのパーツの掛け算で結果的に魅力的な「価値創造ドライバー」を生み出せるのではないかと感じています。