平素から大変お世話になっている株式会社野村総合研究所 上級研究員の三井様からご縁を頂き、ある会計専門誌様の対談形式の取材に参加させて頂きました。内容は企業開示に関する旬な話題であり、事業法人様、投資家の両方にとって興味深いものであると思います。発行が決まりましたら詳細改めてお知らせいたします。
その取材に際して、検討材料として頂いた様々な海外企業の開示例が非常に面白かったことから、こちらでご紹介をさせて頂ければと思います。特に感銘深かったのは、英国マークスアンドスペンサー(M&S)社の開示資料でした。ご存知かとは思いますが、英国が誇る小売業者で世界に8万人を超える従業員を擁するグローバル企業です。
職業柄、日本の企業様が発行される有価証券報告書は良く読ませて頂くのですが、貴重なデータ集として読み進む事はあっても、正直面白いと思って没頭してしまう事はありません。また逆に、近時皆さん力を入れておられる統合報告書は、読み物としてはとても面白いのですが、投資に携わるものとしては非財務情報が中心の同報告書は、何か物足りないように感じてしまう事も事実です。
これに対して、M&S社の場合、英国の法定開示ルールの違いもあるのでしょうが、現状の経営環境分析やこれを元にしたStrategic Reportなる経営戦略が明確に示され、これを実現するための全社でのKPIがしっかり示されている事。また取締役会の経営課題に対する対応とその一年間の振り返りや達成状況、次年度への課題等が提示されており、読み物としてとても読み応えのあるものになっています。
またさらに、重要なのは監査委員会のレポートや独立監査人のレポートもこのStrategic Reportとの一貫性が常に意識されており、独立・中立性を大前提としながらも企業側の等身大の姿を読み手に積極的に伝えようとする意志が感じられる事です。
私達は、財務分析や企業価値向上仮説立案の過程においては、入手可能なありとあらゆる情報を分析しようと心がけています。そのためには、法定開示資料である有価証券報告書を始め、統合報告書や企業様が自主的に準備される様々な開示資料を読み込み、その上で企業様にお願いし、ご面談可能な様々な方々とも面談を行わせて頂きます。その作業は大変ですが、とても意義があるものだと理解しています。
しかし、翻ってこのM&S社のような開示資料が一つあるとすれば、上記のプロセスの少なからぬ部分を、すべての投資家が享受できるようになるのではないかと思います。法定資料として敢えて色をつけない正確な資料として利用されてきた有価証券報告書ですが、いよいよ2021年3月期より「監査上の主要な検討事項(KAM)」の適用も始まるようです。取組まれる企業様、監査法人様にとっては大変なことでしょうが、これがM&S社のようにより良いコミュニケーションツールとしての法定開示資料が作られるための一歩となられることを期待しております。
海外企業の開示の好例としてのM&S社のアニュアルレポート、是非ご一読をお奨めします。
御参考:M&S社開示資料
https://corporate.marksandspencer.com/
(こちらから”Annual Report”で検索してみて下さい)