いわゆる社会貢献を目標に取り込んだ投資の歴史は古く、1920年代の欧米で始まったSRI投資に始まり昨今では公募投信においてもESG投資が注目を集めつつあります。この中で比較的新しいインパクト投資はどう位置付けらえるのかという事に関心を持ち始められるアセットオーナー様も増えておられるように思います。

インパクト投資については、現在もその定義や手法を巡って議論が続いており、唯一無二の答えは見えていないというのが現状では無いかと理解しています、しかしその中でも、「インパクト投資」という言葉の生みの親であるロックフェラー財団を中心に創設されたGIIN(Global Impact Investing Network)は同投資における中心的存在と言えるでしょう。

同GIINによれば、インパクト投資とは”Impact investments are investments made with the intention to generate positive, measurable social and environmental impact alongside a financial return. Impact investments can be made in both emerging and developed markets, and target a range of returns from below market to market rate, depending on investors’ strategic goals.” 

すなわち「インパクト投資とはポジティブで計測可能な社会・環境インパクトを財務リターンと共に生み出すことを意図して行われる投資である。同投資は新興市場でも先進国市場でも取り組む事が出来るし、戦略によっては市場並み或いは市場以下のリターン等の一定のレンジを目標に取り組むことが出来る」と定義されています。

いささか乱暴なまとめ方かもしれませんが「あらかじめ社会インパクトを意識して、その中でリターンを生み出すことを前提として取り組まれる投資」という事で大きくは間違っていないでしょう。ESG投資を巡って、プロ投資家の受託者責任、すなわちESG投資はリターンを生み出すのか?という問いに対する答えが欧州と米国において異なるなど、やや宗教論的な様相を呈しているのに対して、明確にリターンの必要性を定めている点においてはよりストレートな投資手法であると言えるようにも思います。

さて、GIINが定めるインパクト投資の基本的な定義は上記のようにストレートなものではありますが、そのインパクト投資たる要件についてはさらに細かく定義されています。いわゆるインパクトウォッシュを避けるためであったり、その実効性を担保するためであったりと興味深く。機会があるようでしたらこのブログにおいて徐々にその内容についても触れていきたいとは思いますが、上出の投資家様とのディスカッションの中で感じ、また今回読者の方にご理解頂きたいのは、現在のインパクト投資におけるメインストリームが未公開株・債券(デット)であるという事。またそれに対して上場株のインパクト投資についてはほとんど手つかずの状態であるという事です。

元々が教会のチャリティー(慈善活動)のような形で始まり、比較的限定された地域や課題の解決と社会リターンの追求を目的に始まった投資であることから、そもそも投資を通じてどのような社会を実現させたいのか?(Theory of Change) 、特定された社会課題に対して資金の出し手がどのように関与(Intervention)し、どのような影響を与え、どのような成果(Outcome)を生じせしめるのか?またそれは合理的に説明可能なのか?(Logic Model) と言った哲学と活動に対するコミットメントが必要であり、一般的には市場から株式を買付け、一定期間の後にはそれを売却するという上場株投資の世界になじまないからではないか?というのが筆者の考えです。

それでは上場株を対象としたプロ投資家、個人投資家は株式投資を通じてこの流れに貢献することができないのでしょうか? 決してそんなことは無いというのが私の見解です。未公開株やデットを通じたインパクト投資が0から1を生んでいく投資であるならば、上場企業を対象にしたそれは、1を10や100に育てていく投資ではないかと考えています。特に世界でもまれにみる多くの企業が上場している日本の株式市場には、既に様々な分野で重要な社会インパクトを生み出している企業が存在しています。このインパクトを強化していく事こそが私達上場株投資に関わる投資家の今後の重要な責務の一つではないかと思います。

上場企業におけるインパクト投資を謳う投資の少なからざる部分は「社会的インパクトを生み出す企業にベットする」投資であって「投資を通じて社会的インパクトを強化する」投資足りえていない部分も多分に存在しています。しかし上場株投資において社会インパクトの強化を実現させる事は不可能ではありません。現に私達は過去において、多くの中小型株企業様と対話させて頂く中で、投資家発の提案を受け入れて頂くことで、成長が加速され、当該企業様が持つ優れた社会インパクトが強化される姿を見てきたからです。

投資先企業のインパクトという船に「乗る」投資から「共に船を漕ぐ」投資に視点を切り替えることで、上場株投資に取り組む機関投資家も十分にその社会インパクトを強化するお手伝いが出来るのではないでしょうか?