資産運用業界の仲間たちと一緒に、「インパクト投資を上場株に適用する」をテーマとして研究を始めました。スマートフォンアプリのClubhouse上で毎週様々なディスカッションを行っています。皆さまも是非ご参加ください。また本ブログではこの議論の内容をコンパクトにまとめて皆様にお送りします。
リンク:「上場株でのインパクト投資」常設クラブ(Clubhouse内)
次回、4月21日もお昼12時より Clubhouse Meeting を行う予定です。
上場株式でインパクト投資 第四回下
2021年4月7日 12:00~12:30
(このブログは毎週水曜日の12時からクラブハウスでオンエアしている“上場株でのインパクト投資”を綴ったものです)
MC
最後にエンゲージメントの成功事例について話してみましょう。本当は最初全然聞いてくれなかった企業が、なんかこう、だんだん変わっていったと言うご経験は?
Hさん
それはあっても、ものすごく時間がかかるんですよね。だからアクティブファンドで本当にこれをやっていていいのかなって思うことがあるんです。実際の会社では一部の人は変わろうと思っていて、でも大多数の人は思っていないことがある。そこに色々な説明をしたり、提言をして徐々に変わろうと思っている人が増えていく、という会社がある。でもそれって10年がかりなのです。10年もかかるとその間に景気のサイクルがあって、結果的に良くなっても何が要因だったか解りにくかったりします
MC
そうすると、悪くなる時は頑張って発言し食い止めることはでるかもしれないけれど、良くするのはとても難しい?
Hさん
そうですね・・・Tさんがおっしゃったように、もともと良い会社を選び成果を加速するためのエンゲージメントをする、という方法はアクティブファンドとしてピッタリくると思うんです。低迷していて、言うことを聞いてくれそうにないところで一生懸命やるっていうのは、大事だと思いますし、パッシブの人たちは時価総額に対するインパクトも考えてやるべきだと思うけれど、アクティブファンドでは時間軸を考えずにそういう企業を買っていいのか…そこは難しいと思います。
Tさん
それって社会インパクト的には悪くて、長期的に儲かる企業って本当にあるのかというアジェンダにもつながる気がします。つまりアクティブとして、それでも長期的に儲かるんだったら、我々のフィデュ―シャリーデューティとして入れるべきじゃないかという議論も出てくるのかもしれない。個人的にはそういう企業は無いとは思うのですが。
Kさん
たとえば今、東芝の株価は上がっていますね。もし今年のはじめから持っていたら儲かっていたし、持っていないことで損をしたのかもしれません。
それから思うのですが、短期的に変わりやすいのは例えば統合レポートの記載が良くなったという企業はありますね。もちろん中身を伴わせるのは大変かもしれませんが
MC
では今度はちょっと別の視点で、悪くなる企業をエンゲージメントで食い止めたご経験はありますか?小さな事例でも、悪いインパクトに経営者が突入しそうになったのを対話で止めたみたいな
Tさん
ドラマティックな話はないんですが、もともと事業自体社会とかESGとかへの親和性がとても高い会社があって、でもその中で経営としては、EVA創出などを通じた企業価値創出に取り組まれてきた経営者が居られます。この方に、昨今ESG的世界観自体が社会とかユーザーから求められるものになってきているという考え方をお話ししたりしたところ、結果的にロジスティクスの効率化で、仕入れ先を絞り込んたり、配送回数を減らすことで、現場の働き方改革を達成したり、Co2を減らしたりしてくれた企業がありました。我々だけが言ったわけじゃないでしょうけど、ESG等を考えることを利益に結び付けるという思考回路を確立するお手伝いができたと思ったことがあります。実はこの経営者の頭の中にあったのは、ESGへの取り組みを通じて、配送コストを抑えてPLの改善を達成する。さらに、その価値観を通じて交渉すれば(契約をやめる)サプライヤーにも説明しやすい、というような合理性もあったようです。
Kさん
何かをやろうとすると、何かがマイナスになる、どうしてもマイナスの変化も同時に起こると思います。それはある程度はやむをえないことなのだと思いますが、変化は起こらないといけないと思っています。
Hさん
ちょっと違うかもしれませんが、会計不正とか起こした会社が投資家に説明するとき、ちょっと説明がしっかりしていないなという会社があって、なぜその説明が必要か話をしました。その説明をしないことでどんなマイナスがあるか社長たちに説明し、資料を作成するにあたってのポイントを解説したことがあります。
日本の企業には、上場するとき手間を増やさないことばかり考えることがあります。
小型株にはどうして投資家への説明が必要なのか、わかっていない会社もあります。そのような会社に対してどうやって社会的責任を果たさないといけないか、それはなぜなのか、投資家は説明するべきだと思っています。上場する前に投資家に対して間違った認識を持っているケースもある、上場して“こんなに忙しかったのか”とびっくりしている会社もありすごくギャップがあります。企業の中でもIRと他の部署ですごく認識が違ったりします。
MC
社会的インパクトを起こすかもしれない企業の、インパクトの部分は、どこの会社も技術とかサービスにおいてもものすごく専門的で、IRの人たちとは情報ギャップがあるのじゃないかなと思うんですね。それを投資家が助けることによって発信力があがったり。
Hさん
企業が自分で出す資料でSDGsについて書くと“ここに当てはまっています”ってめいっぱいシールみたいに貼っているのを見かけるのですが、それら1つ1つが事業として小さければ意味がないと思うんです。企業のビッグピクチャーがあって、何を目指していて、それがSDGsの何にあたるのかが重要で、一個一個の小さいものを表していったら、どの会社だって何かしらもっているに決まっていると思います。そういうことじゃないというのを、最初にすり合わさないといけない
MC
あとインパクトとか言われる分野に担当者の想いとか事業全体と不一致を起こしやすいものがあると思うんですね。そこを投資家は気を付けていかなければならないと思います。
事業と一致していないだけでなく、自分の思い込みの社会的インパクトを目指していたり。それを投資家と話していかないと。
Tさん
企業が自分たちでこれぞ社会的インパクトがあると思い込んでいる時に、一方では投資家がタクソノミなんかをみて、「その業種であればインパクトと言えるのはこれだけです」って言おうとしているという状況もあり得るわけですね。
MC
常に第三者の意見が必要な気がします。では最後に会場から質問です
質問者
インパクト投資なので、これまでのアクティブのエンゲージメントとで違うところがあるとしたら、アウトカムが最終的に重要な点なのかなと思っています。業績とアウトカムが順方向になっていたら、これまでのエンゲージメントで同じように語れると思うのですが、アウトカムと利益が順方向でない場合は、超長期には30年後なら同じ方向になるかもしれないが、中期的には逆方向になってしまうとしたら我々が預かっているようなお金だとそこには投資できないという理解でいいのでしょうか。
MC
そうですね。タイムホライズンはあわせないといけないでしょうね。
質問者
3年から5年で利益を出さなけいればいけない時は、電力会社に石炭火力を全力でやめてもらって、自然エネルギーで全部かえてもらうとかはちょっと難しいように思います。そうするとインパクト投資が投資できる会社って限られてしまうように思うのですが
MC
なかなか惜しいところではありますが、時間になってしまったので、このシリーズは一旦終えたいと思います。上場株でインパクト投資、収益だけでなく、社会も良くするということは可能か、これについて続けて話していく次のシリーズも考えています。
次のシリーズは企業との対話について、毎回具体的に掘り下げていくようなものを考えていますので、ぜひ引き続きお立ち寄りください。
おわり