資産運用業界の仲間たちと一緒に、「インパクト投資を上場株に適用する」をテーマとして研究を始めました。スマートフォンアプリのClubhouse上で毎週様々なディスカッションを行っています。皆さまも是非ご参加ください。また本ブログではこの議論の内容をコンパクトにまとめて皆様にお送りします。
リンク:「上場株でのインパクト投資」常設クラブ(Clubhouse内)
次回、5月26日は時間を30分遅らせて、お昼の 12時30分より Clubhouse Meeting を行う予定です。
上場株式でインパクト投資 2章 幕間
2021年4月28 日 12:00~ 12:30
(このブログは毎週水曜日の12時からクラブハウスでオンエアしている“上場株でのインパクト投資”を綴ったものです)
MC
今日は、いつものメンバーが一人いないので、前回の続きは次回にして、ちょっと振り返りをしてみたいと思います。前シリーズでは1回目で「インパクト投資をどう思うか」という点をご自身の投資の考え方とリンクさせて語っていただきました。Tさんは社会の問題とその解決を投資テーマとして取り上げてきた、ということでした。今日いないHさんは「一社一社のテーマを拾っていくと、その中で社会をよくするとかインパクトとなることがある」ということでした。ですから、投資をする前にそのテーマを選んでしまうわけではないということでしたね。Kさんは「ネガティブなインパクトを避けることに取り組んできた」とおっしゃったと思います。では、ここまで過去6回話してきて、振り返ってみてどうでしょう。新たに思ったことなどありますか?
Tさん
いや、ここで皆さんと話させていただいて、投資に向き合う姿勢を見つめ直すようなプロセスになったなあと思って、ありがたく思います。そういう意味では変わらないのですが、少しクリアになってきたのは、長期のスパンの個別の企業にベッドしていく投資というのは、社会の強い流れのようなものにもベッドしていて、その流れの中で変化を加速させていくと考えていたのですが、改めて思ったのは、様々な「あったらいい未来」、そこでリターンが得られる投資がある中で、「ありたい未来」を共有できる人と取り組むという点が重要なのかなと思いました。ここでの話を最近はアセットオーナーさんと話すときもちょっと引用したりして。そうすると「自分が思っている社会の課題意識は共有できるが、アセットオーナーとしてトッププライオリティで取り組むべきかどうか考えている」というようなお話を聞けたりして。
MC
そうですね。以前はそういうことは多くなかったのじゃないかと思いますが、最近のながれでは社会の課題も、目指すべきところをアセットオーナーと話すようになったというのはよく聞きますよね。特にこのインパクト投資では。ではKさん
Kさん
そうですね。やっぱり共通のゴールを目指せる人と走るというのが、オーナーもマネージャーも安心してウイン・ウインでできると思うんです。だからお互い考えていることをクリアにして、共通のゴールを目指していくのが健全な姿だと思います。今までそういう対話というのは、あまりなかったと思うのです。リターンが選べればいいじゃん、過去3年間で一番リターンが多かったところに預ける・・・みたいな。でも過去が未来につながるわけじゃないので、将来をこう考えていますよというのを一緒に考えられるほうが。
それと投資先に対して、ESGとインパクトってだいぶ違うなと思いました。ESGはいいところに投資しようみたいな感じですが、インパクトは応援できるところに投資しますっていうことなんだなと思うようになりました。
MC
ありがとうございます。そうなんですよね。最近の流れで、重要なのはアセットオーナーとアセットマネージャーで共通の未来をみていくというところかなと。
ただその後、第一シリーズの最終回で、ではアセットマネージャーが企業に対し実際変化を起こさせていくかアセットオーナーに説明する際、「俺が企業をこうさせた」という、「企業にインパクトを起こさせているのは自分だ」という「俺させ」詐欺が出現するのを心配されていたTさんに、ご自身が企業に起こさせている変化との違いについて、お伺いできますでしょうか。
Tさん
いやその・・・言葉尻をとらえてきますねー。いや過去にやってきたエンゲージメントでも、増配をして株価があがった会社があって、その企業の人と話してたんですが、相手の方が“あの増配は俺がさせたんだ”、とおっしゃっている投資家の方がいて・・・なんだかなあと思っていると。見て明らかなテーマは、共同エンゲージメントではないけれど、いろいろな人が言うことによって会社も納得して変化が起きる・・・でもこれって誰が働きかけたかとか、特定するのは難しいと思うのです。
やっぱりその因果関係は、規模が小さくてインパクトが特定されていて、“株価”というのがつかない投資の方が分かりやすい・・・逆に言えばエンゲージメントの企業が実現するインパクトとの因果関係は見えにくいなあと。これから「俺させ」インパクトって増えそうで・・・特にクライメート系は、汎用性が高いのでインパクトにどう本当に関わっていけるのか。
MCさん
ありがとうございます。もう一つ。シリーズ1の3回目でアセットオーナーにどう説明しているか、という議論の時Kさんが、アセットオーナーの関与について面白いコメントをされていました。今の話でもあるように“俺させ”詐欺を見抜くためにはある程度アセットオーナーも関与してもらうしかないように思うんですけど、Kさんあの時“アセットオーナーはあまり関与しなくてもいいと思う、アセットマネージャーを信じてくれれば”というようなコメントをされていましたね
Kさん
いや、あれは、アセットオーナーがいろいろ考えているのであれば、直接自分でエンゲージメントすればいいという意味で・・でも日本の場合なかなかできないと思います。公的年金とか・・・その場合はアセットマネージャーを信じて預ければいいと思うのです。あんまり箸の上げ下げまで突っ込んでくるのはおかしいんじゃないかなと思ったのです。たしかに“俺させ”詐欺は問題かもしれないけれど、悩ましいですね。“増配したと言ってもあなただけが言ったわけじゃないでしょ”っていうのは、みな分かってることですよね。でも“私も言ったんです”って言わないと・・・その人の時間はなんだったの?ということになるし、アセットマネージャーが言うインセンティブが無くなったら困るし・・・。言ってもいいんじゃないかなと。
Tさん
これってアセット・オーナーとアセットマネージャーが共に成熟していかなければならないところなのでしょうけれど、アセットマネージャーの何を評価するのか・・・インパクト投資でインパクトを起こすような企業をみつける目利き力なのか、インパクトを実現するエンゲージメント力なのか。
Kさん
でも自分がアセットオーナーだったら、何をアセットマネージャーに聞けばいいんだろうか。たとえばたまたま配当上がったかもしれないけど、“この会社がなぜ配当が上がる必要があると思いましたか”とか聞いて、答えられないようなアセットマネージャーだったら、やっぱりそれは「俺させ詐欺」かな。その会社が今増配することが将来価値にちゃんと貢献するとか言えればいいのかも。
MC
それは正しい気がします。ただインパクト投資の場合、インパクトのシナリオ、達成したい価値を持っているのがアセットオーナーであるかどうかが重要で、その場合何人のアセットマネージャーが企業に対し同じエンゲージメントしてくれてもいいのかもしれない。アセットマネージャー側としては、自分により多く頼ってくれた方が、インパクトの実現がしやすいと説明しないといけないのかなと。で、アセットオーナーの問題は、みんなが「俺させ詐欺」で誰も結局ちゃんとエンゲージメントしていなくて、インパクトが起きない時なのかな。
Tさん
でもみんなが言っても結果がでなかったらどっちでもいいのかも。
Kさん
一つ言いたいのは、一人の力よりみんなの力だと思うんです。「俺させ詐欺」の人もみんなで・・・。
MC
ではもうひとつ。第2シリーズが始まってから、“上場株投資の方がインパクト投資という意味ではやりやすい”という意見が出たと思います。Hさんから、将来のインパクトがしっかり示せれていれば、その実現までに費用がかかって利益がでなくても株価には影響がないはずだ、だからインパクト投資のような期間のかかることに対して、上場株のほうが投資しやすい理由だということでした。そうしたらKさんから“理論的にはそうだけど、現在の企業の開示からはそれほどうまくいくとは思えず、市場の価格発見機能はそれほどワークしないだろう、という話がありました。とはいってもそのような企業の変化はパフォーマンスの源泉だ、という意見がありました。Kさん、今はどう思いますか?
Kさん
うん・・上場企業でも非上場でも企業価値を図ることはできると思いますが、開示だけを見ているわけではないというのもありますし・・・。アクティブマネージャーとしては・・・開示だけで判断するわけではないというか。
MC
お気持ちはわからないわけではないのですが、一応市場と開示の関係としましては、株価が将来の企業価値を反映するよう開示しろと言わないといけないのでは
Tさん
ぼくはマーケット教なので・・・ある程度時間がかかれば企業価値は発見されていくんじゃないでしょうか。だからぼくは上場株市場って尊敬しているんですけど。ただコンピュテンシーモデルじゃないですけど、今まで何にもしてなかった企業がいきなり“開示”しても市場はそれを信じないと思うんですよ。Kさんが仰っているのはそういう意味では。
ただ一方では前倒しで節操なく価格に折り込まれることもあると思うし・・・。ここのところいろいろなセミナーでていて、セルサイドアナリストの方がESGレーティングを一生懸命話してくれるんですが、ちょっと前まで四半期のEPSについて話していたのに・・・。MSCIの指数に入れるのはこの企業です、なんて強調して。これが上場株のまずいところかなと。本質な価値が受給要因で動いちゃう。
MC
Kさんの話に言いそびれたんですが、前回までの議論では、上場株の良さは、ずっと株価が将来の価値を反映していれば、アセットオーナーの投資期間とあっていなくても投資できる、インパクト実現前でも株価が動いていなければアセットオーナーはイグジットできるということだったかと思いますがどうでしょう。変な話アセットオーナー一人一人の投資期間がすごく短くても。
Kさん
それはそうかもしれない。だけれど、今の株価が将来の価値を反映している“だけ”ではつまらない。それを変える力があるのがインパクト投資の投資家で、その期待があるからそのマネージャーをえらぶんじゃないでしょうか。
MC
ありがとうございます。では閑話休題の“振り返り”はこれくらいで。次回はまた、人権のところに戻りましょう。
続く