資産運用業界の仲間たちと一緒に、「インパクト投資を上場株に適用する」をテーマとして研究を始めました。スマートフォンアプリのClubhouse上で毎週様々なディスカッションを行っています。皆さまも是非ご参加ください。また本ブログではこの議論の内容をコンパクトにまとめて皆様にお送りします。
リンク:「上場株でのインパクト投資」常設クラブ(Clubhouse内)
本日、6月16日も、お昼の 12時30分より Clubhouse Meeting を行う予定です。
上場株式でのインパクト投資 3章 1回上
2021年5月12日
(このブログは毎週水曜日のお昼にクラブハウスでオンエアしている“上場株でのインパクト投資”を綴ったものです)
MC
いよいよ第3シリーズです。シリーズ1では、インパクト投資をどう思うか、インパクトの実現と企業価値、アセットオーナーとの対話、企業との対話など全体をざっくりと話してきました。そして第2シリーズでは大きなトピックは2つ。まず長期に実現するインパクトを目指しているなら上場株のほうが向いているよねという話。インパクト投資はもともとプライベートエクイティなどで取り組まれていたと思いますが、将来実現する社会にポジティブなインパクトを企業が目指しているならば、手前で多少費用が掛かろうが、投資が終わるまで利益がでなくても、株価に影響はないだろう、例えば自分の投資期間が短いアセットオーナーでも株価に揺らぎがなければ投資できるよねという話です。それからウイグルやミャンマーのような状況の時投資家はどう考えるべきかについても話しました。さて今回のシリーズ4回では、インパクト投資でわりと取り上げられることが多い気候変動について取り上げてみたいと思います。伝統的なのでは井戸を掘るとか、ごみを減らす、資源を有効に使う、有害な素材を置き換えるとか、社会が急激に価値観を変えることがなければ、一定のアウトカムと収益を見込みやすいです。ただこれらのテーマは解決策が技術的に正しいのか、見極めるのが難しく判断に迷うという悩みもよく聞きます。この環境とか気候変動について、これまでの投資で、“いい取り組みをした”とか逆に“悪い状況なので良くしたい”とかそういった投資をしてきたか、その場合どのように考えられたかをお聞きしたいと思います。ではKさん。
Kさん
環境で最初に思ったのは、20年ぐらい前なのですけど、オランダのシェルに訪問したことがあって。それは北海で事故が起きた時で、環境団体に突き上げられていました。日本だと事故があったら経済的な影響とかが言われるのですが、オランダだと環境団体や社会から問われシェルもその対応に非常に悩んでいました。その時IRの方と夕食を挟んで話し込んだのですが非常に日本と違うと思いました。今は日本もそうなりつつあるのですが、社会へのインパクト、自然へのインパクトを考えていかなければならない社会になりつつあるのだと、20年ぐらい前に非常に思いました。
MC
そうですね、オランダの投資家がよくおっしゃっていたのは、オランダの投資家が環境への意識が高いのは、消費者の意識が高いから、投資先の企業が必ず影響を受けるから、意識をもっていないといけないということを聞きますよね。
Kさん
そうですね。今やっぱり、お客さんに好かれるためにどうするのかと考えた場合、自然破壊をしているような会社だと受け入れられないということです。日本でもかつてはチッソとか、水俣とかあったわけですが、それからずっと環境に対してはいい国だととらえられてきましたが、もう今はそうではないのじゃないかということを振り返らないといけないと思っています。
MC
ありがとうございます。次はHさん
Hさん
上場株での投資ということで話しているので、それを踏まえて話すと、我々が行っている投資は“値段”が付いているということだと思うのです。それは“みんなの認識と同じであってはダメ”ということです。ただ環境に対しいいことをしている企業だからいいということにはならないし、彼らがやっていることが過少に評価されているとか、現状の悪い状況が過剰に織り込まれていて、それが再評価される可能性があるとか、そういったものがないと投資にはならないということだと思うのです。
そういう中で環境についていつも気にしているのは“目標設定が変わると結果がかわる”ということです。CO2を30%削減するというのと、50%削減するというのではかかる投資も変わってくるし、頑張って50%削減するよりも30%にしておいたほうが企業価値としてはポジティブかもしれない。これはキャッシュフローの最大化という観点から見た話です。規制がでてくるとトップランナーを評価しがちですが、必ずしもトップランナーになることの経済価値が高いわけじゃない。規制とか、投資のバランスをよく考えて投資しないといけないといつも思っています。
環境ってどの会社も目標を設定していてわかりやすいのですけど、だから簡単というわけではなく見極めが大事だと思っています。
MC
つまりHさんのおっしゃっていることを理解してみますと、まず環境って、取り組むことで自社の収益にプラスになるということと、リスクに対する対応みたいなものと2つあり、その中で、30%削減、50%削減とか、つまりいいインフラを入れるとか製法を変えてCo2出さないとかだけじゃなく、レギュレーション的な目標があってそれにあわせないといけない。そしてそれが途中で変わってしまうと、ストラテジー的な問題、設備投資の失敗などといったことがでてくる・・・ということですね?
Hさん
そうです。それともうひとつ何か起こったときは悪いことは織り込まれているので、その織り込み具合はどうか・・・そういうことが投資で重要になるということです。たとえば石炭ですが、最近では石炭というアセットの価値はゼロとかマイナスと言われているのですが、それ本当にゼロだと考えていいの?ということを考えていく。つまり方向性が良いかどうかだけでなく、投資ってそれが企業価値にどれだけおりこまれているかということを判断するわけなので。
MC
わかります。レギュレーターが“2030年30%とか2050年ゼロ”とかいうと、それにあわせて計画をたてます。でもその計画が非現実的だったり、大きな投資をし始めてから途中でレギュレーターの目標が変更されてしまったら問題がありますし、石炭のケースもみんなが“価値はゼロだ”と言っていても、そのターゲットが変わればゼロじゃないかもしれない、投資家としてはそういったことを見抜いていかなければならないから、単に“気候変動に対応しているからいいよね”というシンプルな判断じゃないということですね?
Hさん
そうですね。
MC
あとトップランナーになることの経済価値についてですが、これは気候変動対応を積極的に事業としてやっている場合だと思いますが、たとえば電池や水素を作りますとか言っていても本当に作れるのかみたいな、そういうようなこともありますか?
Hさん
そうですね、例えばどの方式がデファクトになるかわからない時とか、自分たちがトップランナーだよといってみたとしても、その製品などが適応しなくなるかもしれないし、それで頑張りすぎているとまずいということです。環境を良くするためのツールを提供する会社と、環境をよくするために頑張る会社があって、そのどちらかによっても変わるのですが、ゴールが変わると頑張りすぎていないほうがいい場合もあります。そのように“ゴールが動く”こともあると意識しながら投資する必要があります。
MC
そうすると、Hさん自身もそのレギュレーションやゴールに対し、投資先企業の対応がそれで良いかどうか分析しなければならないし、それに対しアセットオーナーが同じような理解でないと“これいいことやってるじゃないか”と言って困ったりして・・・
Hさん
それすごくあります・・・。たとえばここ数か月の相場では、環境に良くない会社の株ってすごく上がっていると思うのですよ。短期的には。なんでかというと、環境に良くないものを作っていたりすると、新たな設備投資が発生せず、しかし経済が回復してくると、新たな供給がなく、需要があがるので、価格が上がり利益がでるため株価が上がっちゃったりする。そういうことをいつも考えないといけないのです。
MC
なるほど、よくわかります。ではTさん、お二人が言ったことについてご意見ありますか?
Tさん
いやもう、本当に、よくわかります。我々はESG投資とインパクト投資って隣の畑でオーバーラップもしているので、いつの間にか一緒くたにして話してしまう事もある思うのですが、一緒に話すといけない部分もあり。たとえば前回人権については、A民族とB民族で違う価値観を持っていたりして難しい・・・という話をしたと思います。それに対し、比較的クライメートとか環境問題は人類共通だよねって思ってはいたんですが、それでも良く考えれば、そうではないケース、良し悪しが簡単にはいえないケースがあるなと感じました。
続く