いよいよシリーズ最終回です。ここまで、出店モデル(第2回)とアニメ需要(第3回)という2つのエンジンを見てきました。では、その次に来るラウンドワン(4680)の成長の柱は何でしょうか。答えは、インバウンドで実証済みの日本の「食文化」です。同社は価格帯の異なる2つの新業態で、この需要をアメリカで先取りしようとしています。
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YUU Japanese Food Hall|出店余地を広げる「切り札」
1つ目は、従来店舗に併設するフードホール「YUU Japanese Food Hall」です。会社資料の言葉を借りれば、ラーメン・うどん・たこ焼きなどの各ジャンルで「国内で高評価を得た名店のみを集結」させ、参加店舗はいずれも全米初出店となります。注文はキオスク端末やスマホで複数店を一括ででき、家族や友人と一つのテーブルを囲みながら、それぞれ好きな名店の味を楽しめる設計です。入口はモール側と駐車場側の両方に設けられ、第2回でお話しした「ダイレクト入店」の設計思想がここでも貫かれています。
YUUの戦略的な意味は、単なる飲食の強化にとどまりません。エンタメ単独では成立しにくい2〜3番手モールでも、「日本の食」を足せば勝負できるようになるのです。つまりYUUは、出店余地を200店超へ押し広げるための「切り札」でもあります。展開エリアはカリフォルニア・テキサス・フロリダ・ニューヨーク/ニュージャージーを予定しています。
参加する名店の顔ぶれも魅力的です。ラーメンの「Ramen Hayato」、うどんの「Udon Shigemi」、おにぎりの「宿六」、たこ焼きの「わなか」、カレーの「SOMA」、とんかつの「成蔵」など、日本の食通なら思わず頷く実力店が名を連ねています。日本で行列のできる味を、アメリカのモールで気軽に楽しめる——この体験価値は、現地の日本食レストランとは一線を画すものとなります。
「ラーメン一杯20ドル」という現実が、追い風になる
値段の話をさせてください。視察では現地で人気のラーメン店にも実際に足を運びました。すると、一番安いラーメンが一杯20〜24ドル、チップ込みではおよそ24〜28ドル(約3,800〜4,500円)もするのです。日本の3〜4倍の値段です。それでも店は賑わい、人気店では行列すらできています。
アメリカでは日本食が「プレミアムな体験」として堂々と受け入れられており、値付けの天井が日本とはまるで違います。この物価環境なら、国内の名店の味を揃えるYUUには十分な価格設定の余地がありますし、後述するデリシャスの客単価750ドルという計画も、決して法外な水準ではないといえます。同じ日本品質の食を、3〜4倍の値段で提供できる市場——だからこそ、米国は日本のサービス業にとって収益機会の大きい市場です。
Round One Delicious|日本でも予約困難な名店を、米国一等地へ
2つ目は、まったく毛色の違う高級業態「Round One Delicious」です。会社の開示資料に基づけば、鮨・日本料理・中華・創作・焼鳥・天ぷらといった名店を6〜8店+BARで一つの「ユニット」にまとめ、2026年冬から北米展開を始める予定とのことです。2027年3月期にロサンゼルス(West Hollywood)とラスベガス、2028年3月期にはニューヨークへ広げる計画です。
参加するのは照寿司・菊鮨・鮨駒・片折・銀座上瀧など、日本でも予約が取れないことで知られる名店ばかりです。店舗開発から運営までは連結子会社が担い、協力加盟店にはロイヤリティと職人育成の報酬を支払う仕組みになっています。つまり名店側はリスクを抑えて海外進出でき、ラウンドワンは本物の味とブランドを手に入れる——双方に合理的なモデルではないでしょうか。
立地も戦略的です。LA店はセレブとカルチャーが集まるSunset Blvdエリアに8店舗+BARの構成で、ラスベガス店は24時間観光客が絶えない中心部に6店舗+BARの構成で計画されています。世界中の富裕層と観光客が集まる一等地で、「本物の日本食」を面で見せる——このスケール感は、単独出店の日本食レストランには真似のできない打ち手だと感じました。
| 項目 | 計画値 | 備考 |
|---|---|---|
| 平均客単価 | 750ドル | — |
| 年間売上(1店舗) | 300万ドル | 年間集客 約4,000人 |
| 初期投資(1店舗) | 140万ドル | 約14席・360日営業 |
| 店舗人員 | 約10名 | 店長・職人・スタッフ |
客単価750ドルの小さな箱を、360日ほぼ休みなく回します。投資額140万ドルに対して年間売上300万ドルという、資本効率の高いモデルです。カジュアルなYUUと高級なデリシャス——この2つを組み合わせることで、ファミリーから富裕層・観光客まで、価格帯を「面」で押さえにいく設計になっています。
なぜ、エンタメ企業が「食」で勝てるのか
「エンタメ企業が、いきなり食で勝てるのだろうか?」という疑問が浮かぶかもしれません。しかし、勝ち筋は十分にあると考えられます。理由は3つです。
- 集客装置をすでに持っている|年間何百万人も来店するエンタメ施設の隣に食を置くのですから、ゼロから客を集める飲食店とはスタート地点が違います。
- 「本物」を連れてくる調達力|アニメで培ったIPホルダーとの関係構築力は、名店との協業でもそのまま生きています。レシピ提供・職人育成・品質モニタリングを名店側が担う仕組みは、その信頼関係の証です。
- インバウンドで実証済みの需要の上に乗っている|日本を訪れた外国人観光客が最も感動するのは食だと言われます。その体験を、集客力あるラウンドワン店舗や一等地を通じて、なじみのあるアメリカの自宅の近くで提供する——順番として自然な流れです。
こうして全体を俯瞰すると、ラウンドワンの設計図が見えてきます。巨大で安い「器」(居抜き店舗)に、世界最速で伸びる「中身」(アニメ)を載せ、さらに「食」で客層と立地を広げる。それぞれの打ち手が独立しているのではなく、互いを強め合う構造になっているのです。
現地で感じた将来像
Anime Expoで“ネットのインフラ”クランチロールの存在感を目の当たりにして、ふと思ったことがあります。ラウンドワンが目指すべき姿は、“リアル消費のインフラ”ではないでしょうか。フードホールとアニメ系コーナーを拡大していけば、全米に広大な面積を持つこの店舗網は、「日本のアニメと食を体験する場所」のスタンダードになり得ます。そう感じさせるだけの熱が、確かに現地にはありました。
全4回のまとめ|なぜ、いまラウンドワンなのか
- アメリカが“第2の柱”から主柱になりつつある(第1回)|売上は国内に肉薄し、店舗は6年で41→59店に増えました。営業利益率約15%・ROE22.4%と、収益力も高い水準にあります。
- 伸びしろが桁違い(第2回)|居抜き×車社会×長時間営業のモデルによって、大きく稼ぐ店を安く作れます。出店余地は200店超(現状の3倍以上)残っており、ROIが高く回収も早いのです。
- アニメ需要と、競合が追いつけない堀(第3回)|世界最速で伸びる北米アニメ需要を、IPとの関係・景品開発力・運営力でリアルに現金化しています。競合の既存店がマイナスの中、同社だけがプラスを維持していることが何よりの証拠です。
- 食文化で、次の柱を上乗せできる(第4回)|YUUで出店余地を広げ、デリシャスで富裕層まで網羅します。“リアル消費のインフラ”への道筋が見えてきました。
最後に、もう一度だけお伝えさせてください。この会社の成長は、決算書を眺めているだけでは半分も見えません。夜のモールにただ一つ灯る巨大な店。限定カードを配るAnime Expoのクレーンコーナー。アニメフィギュアにすっかり様変わりした景品棚。——どれも、現地に立って初めて腹落ちする物語でした。その空気ごとお届けしたくて、この全4回を書きました。ご愛読いただき、ありがとうございました。
レポート全文(PDF)のダウンロード
本ページは要約版です。図表を含むレポート全文は、下記よりPDFでご覧いただけます。
【PDF】次の一手「食文化」と、投資家への示唆(第4回)をダウンロード
シリーズ一覧
- 第1回:ラウンドワンという会社と、米国という成長エンジン
- 第2回:反則級の出店モデルと、200店超の伸びしろ
- 第3回:アニメ需要と「リアル・プラットフォーマー」の実像
- 第4回:次の一手「食文化」と、投資家への示唆(本ページ)
出所・ご留意事項
本資料は株式会社ラウンドワンの開示資料(「2026年3月期 決算説明会資料」2026年5月13日ほか)、公式サイト、ICSC・SPJA等の第三者データ、および作成者による2026年6月末〜7月上旬の米国現地視察(シアトル・ヒューストン・ロサンゼルス・サンフランシスコのラウンドワン10店舗、競合約20店舗、Anime Expo 2026)に基づく情報提供資料です。特定の有価証券の売買を勧誘するものではありません。現地観察に基づく数値・構成比は作成者の概算・体感値を含みます。出店余地は作成者の試算であり、会社の公表計画ではありません。将来予測には不確実性が伴います。投資判断はご自身の責任でお願いいたします。
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