資産運用業界の仲間たちと一緒に、「インパクト投資を上場株に適用する」をテーマとして研究を始めました。スマートフォンアプリのClubhouse上で毎週様々なディスカッションを行っています。皆さまも是非ご参加ください。また本ブログではこの議論の内容をコンパクトにまとめて皆様にお送りします。

リンク:「上場株でのインパクト投資」常設クラブ(Clubhouse内)

4月14日もお昼12時より Clubhouse Meeting を行う予定です。

上場株式でインパクト投資 第三回上

2021年3月31日 12:00~12:30

(このブログは毎週水曜日の12時からクラブハウスでオンエアしている“上場株でのインパクト投資”を綴ったものです)

MC
前回は、最近議論されているインパクト投資というのは、アセットオーナーが社会的インパクトを目指し、そのゴールを選んでいるケースが見られるということを話しました。今回は、みなさんが投資のインパクトをアセットオーナーにどう説明しているかについて話していきたいと思います。ではTさんから過去に自分の投資のインパクトをどうアセットオーナーに説明してきましたか?

Tさん
私は小型株を対象とした、戦略まで踏み込むエンゲージメントファンドを運用しているわけですが、そのエンゲージメントで企業の成長戦略、長期にわたる成長ではSDGsなどをどう実現するか、といった議論しています。ではお客さんとは、どういうコミュニケ―ションをしてきたかというと、株価があがっても、それが我々のエンゲージメントの成果なのかどうかというのがとても難しく・・・。株価は需給でも決まりますし、私の場合は集中投資で15社ほど投資しているうち、トップ数社についてこういうエンゲージメントをやっています、企業が聞いてくれればこういう風に財務的なインパクトが得られるはずですといった説明をします。ただこれは暗に言っているのですが、財務的なインパクトがあれば必ず社会的な事象としてのインパクトがあるはずです。だから一生懸命説明してきたのは、株価ではなく企業価値をあげるためにエンゲージメントをしており、企業価値が上がれば彼らのビジネス、地方のインフラを支える何かであったりしますが、それも達成しますというようなことを伝えています。

MC
つまりTさんは社会的インパクトの部分はアセットオーナーにはメインでは話さない?話しても訊いてもらえない? アセットオーナーに企業価値向上の話はするけれど、相手が関心をもつのは・・・実は株価ということですか?

Tさん
その先にあるものはインパクトのアウトカムなんだろうけど、その途中で財務的結果が出ているはずで、そこについては今もきちんとお客さんとコミュニケーションしています。

MC
・・・でもTさんが思う社会の部分はあんまり訊いてくれない・・・?ではKさんはどうですか?

Kさん
難しい問題ですね。今期の株価をあんまり追わないように、インパクト投資をしっかりやってくださいねっていうオーナーはヨーロッパにはいます。でも日本で他よりもパフォーマンスが悪くてもいいですよって言ってくれる人はほとんどいないです。ヨーロッパではインデックス並みのパフォーマンスでもいいからしっかりやれよっていう人もいますが・・・・。いい意味でも悪い意味でも、日本では“ESG投資とかインパクト投資、全く関心ありません”という方もいらっしゃいます。それはそれでいいと思うんですけど。自分としては、投資家として物事を微力ながらいい方向に向かわせたいなという気持ちがあるので、そういう投資をしていきたいし。一年後に良くなるかどうかわからないし、1年後にリターンとして帰ってくるかどうかわからないけれど、5年後、10年後には帰ってくるでしょう、という期待のもとでやっているので、僕らはこう考えていますと伝えていくしかないと思います。

Tさん
Kさん、パフォーマンス悪くてもいい、っていうのは、でもインデックス並みは出してくれないと困るというわけですか?たとえばパフォーマンスが悪くて社会インパクトが出せているっていう時は、どういう行動をとられるのですか? “いい結果出せたねえ”っておっしゃる? それはそれでオーナーは長い目でみてくれようとするのですか?

Kさん
でもそうはいかないと思います。オーナーも一社だけに預けているわけじゃなくて、何社かのアセットマネージャーに預けていて、みんなが良くしようとしてやっていて、その中にパフォーマンスが良くてしかも社会貢献もできているところがあればそっちへ・・・と思うでしょう。だから悪かったら切られるということだと思います。

Hさん
たぶんですね、アセットオーナー側から見た時、社会的インパクトは起こせたけどパフォーマンスが出せない・・・っていうのはないと思うんです。インパクトを起こした企業については、パフォーマンスは当然上がると思うのです。しかし、ポートフォリオなので、一社に投資しているわけじゃない。だから実現している時期が違うので、まだほかにしっかりしたインパクトを起こせていない会社がいくつかあって、全体でいくとパフォーマンスが良くなかった・・・という時はあると思うのです。もしインパクトはおきたのだけど、その会社のパフォーマンスが全然だめということは、インパクトの計測が間違っていると思うんです。

MC
Hさんのご指摘、正しいと思います。今はやりのインパクト投資では、ヨーロッパだとアセットオーナーがアセットマネージャーに、企業が本当にそのインパクトに向かって成長しているのかチェックさせるというのが多いと思うんですね。だから最初にインパクト(サステナブルなゴールに対する)を選ぶとき、そのマーケット規模だとか、関連する数字だとかをベースに、この市場は大きくなるとか、特定のテクノロジーが求められているとか、そういうところで選ぶという手法をとってらっしゃるケースが多く、そのインパクトに貢献すると選んだ企業が、言っているだけでちゃんとした製品を作れないとか、そういうことがないかをみていく、だからインパクトを出せたら、通常はなんらかのパフォーマンスは出ると思うのです。

Tさん
うーん、そうなんですけど・・・。インパクトに対する期待もしだいに市場におりこまれていくと、想定通りのインパクトを起こしたにもかかわらず、株価が違う変化を起こすことがある気がするんですよね・・・だから難しいなと。

Hさん
それについてですが、エンゲージメントをしてるとか、インパクトを起こしているという時、たくさんの投資家が似たようなことをやっていることってあるじゃないですか。その会社に対し、みんなが同じようなことを言っている。その時ってみんなが買っているから、その分株価に織り込まれているわけですよね。だから自分ではこれだけ変化したから、これだけインパクトを与えた・・・と思っているけど、投資家の数で割り算したら、自分の与えた分は小さいかもしれない。自分だけがその会社にインパクトをあたえたのであれば、それだけの価値が還ってくるんでしょうけれど。

Kさん
うーん、やっぱり私は、インパクトを与えたら株価があがるってもんでもないと思うのです。環境問題なんかだとむしろ下がることもあるのでは。また、必ずしもインパクトが経済的リターンにつながる場合ばかりではない、と考えなければならないと思います。例えば、その会社が20年後に“あの時、あれ辞めておいてよかった”といえるような課題をみつけて、エンゲージメントするということもあります。

MC
そうですね、あとありがちなのはIT系の企業でみんな期待して株価が上がって、その後成果はだしているけど、株価はずーっと下がっている・・・みたいなこともありますよね。今流行っているインパクト投資、EUタクソノミとかSDGsとか出てきた後に、議論されているインパクト投資は、UKやEUのアセットマネージャーが“楽になった”というのは、アセットオーナーが最初にそのゴールを目指すと言っている場合、アセットオーナーに理解してもらうのが容易になった・・・という声を聞きます。このEUタクソノミやSDGsがアセットオーナーとのコミュニケーションを助けているか、次回はここの点について深堀してみましょう。

(つづく)