上場株インパクト投資の研究 3章(6)

資産運用業界の仲間たちと一緒に、「インパクト投資を上場株に適用する」をテーマとして研究を始めました。スマートフォンアプリのClubhouse上で毎週様々なディスカッションを行っています。皆さまも是非ご参加ください。また本ブログではこの議論の内容をコンパクトにまとめて皆様にお送りします。

リンク:「上場株でのインパクト投資」常設クラブ(Clubhouse内)

7月14日は、お昼の 12時より Clubhouse Meeting を行う予定です。

上場株式でインパクト投資 3章 4回

2021年6月2日前半

(このブログは毎週水曜日の12時からクラブハウスでオンエアしている“上場株でのインパクト投資”を綴ったものです)

MC
では、今日は前回の続きから、気候変動対応を行うために配当を見直すといった東京ガスの事例について話していきましょう。前回も少しお聞きしましたが、一週間たってご意見も変わったかもしれませんので。

Tさん
そうですね、一瞬思い浮かべたのはダノンのCEO解任の件で、報道も見たのですが投資とESGが二律背反的に語られている良くない例だなと思いました。東京ガスさんが上場企業として果たさなければならない長期戦略の説明責任、そこにESGをどう絡めていくかという必然性の部分とそれに対する資本政策の課題がごっちゃに語られているという気がしました。マスコミが極所だけをとりあげているような印象がしました。

MC
ニュースとしてはそうですが、Tさんはどう考えますか?たとえばTさんが投資先の起業が予定外にそういってきたら、“いいこと言うねえ”っていうか・・・

Tさん
うーん、たぶんそのお話が出る前に十分コミュニケーションしておくべきなんでしょうけどね。(笑)もし期待するインパクトを強化していくうえで、インパクト強化のための追加投資が結果として企業価値を下げるのであればインパクト投資としての要件を満たしていないわけで、投資を始める前に見誤っているということだと思いますので。

MC
Kさんはどうですか?

Kさん
一時的に業績が悪くなることはあり得るのかなと思っています。いろいろな会社で今後起きてくると思います。そうすると株価評価としてマイナスになることもありうると思います。将来的にこの会社が強くなれるかどうか、炭素税の支払いもあるかもしれないし、消費者から好かれ、売り上げが伸びそれがプラスに働くなら応援していいんじゃないかと。今後5年とかで考えたらマイナスになることもあるでしょうし、NPVも下がるかもしれないけど、容認しないといけないのではないかと思うのです。でも東京ガスについては、今まで配当をずっと上げてきて配当性向も6割あって“配当でみてください”とマーケットに対し言い続けてきた会社だと思うのです。それが今年は決算でも“配当増やしてきました”というグラフも入れていないし。投資が必要だということは前からわかっていたでしょうし、急に方針を変えると、配当がいいと思っていた人は怒って売るでしょうし、経営に対する信頼性はちょっと落ちるのかなと思います。

MC
あの、でも東京ガスさんにとっては、ガスの会社ですし何か対策しなければいけないとなると、なんらかの資金を用意しないといけないわけですよね。単に説明が足りなかった?

Kさん
でも、説明が足りなかったというのはおかしいのかなと思っています。短期的に経営を考えているのであればあるかもしれませんが。長期的に考えて配当性向もあげてきた会社のはずなのに。本当は長期的に考えてやっていなかったのではと思ったりします。

MC
もしかしたら逆に、配当が(だけが)いい会社って言わないほうがいいってことなんでしょうかね。東京ガスだったらどうしたらいいのかなと。

Kさん
それだけがいいわけじゃないけど、そのようにコミュニケーションをしてきたので、そこを変えるのであれば徹底的にコミュニケーションすべきだと思うんです。

MC
うーんそうですね。ではHさんはいかがでしょう

Hさん
東京ガスについては完全にコミュニケーションの失敗だと思っています。2020年の3月に中計を発表していて、2022年までに何をやるか明確に説明しています。それは2030年に向けてのビジョンがあって、その中で何をやるべきかになっていて、その中で2022年までは総分配性向(連結純利益に対する配当と自社株取得の割合)を各年度60%に定めています。ところが、今回配当削減の可能性を発表したものは“コロナ禍をふまえた東京ガスグループの経営改革”になっているのです。コロナ禍っていうのは理由として不誠実ですよね。コロナ禍ではなくて、環境に対する社会の認識が変わったとか、バイデン政権の誕生とか日本政府の目標が変化に対して早期の投資が必要だから変えると直接言えばいいのに。そうじゃないから投資家は怒ったのだと思います。
それに昨年の決算発表時にも年間の業績予想を発表していなくて、この時もコロナ禍でわからないという説明だったのですが、レストランとか小売りならともかく、東京ガスさんのようなビジネスで、コロナ禍で需要が読みにくいって、たぶん限定的じゃないですか?コロナをいろいろなところで理由にしすぎている。その辺に対する不信感がでたんじゃないかと思います。

MC
今Hさんが“でたんじゃないか”というのは株価が下がったってことですよね。

Hさん
そうそう、そうです。投資家がNoといったという論調になっているのでけど、投資家は環境投資をすることについてNoといったわけではないと思うのです。コロナを踏まえて環境投資しなければならない、というのはちょっとわからない。

MC
たしかにコロナをつかって、関係ないと思われるような産業がやたら減損したり、減配したりということが起きていましたよね。そういう経営のやり方自身には長期投資家としてはNoを突き付けないといけないですよね。

Hさん
うん、ただネットゼロって言われたから、って書いてくれればいいと思うんです。何度もいいますが、タイトルが「コロナ禍を踏まえた・・・」ってとこだと思うんです。

MC
そうですね、今Hさんがおっしゃったように株価が下がったんですよね。Kさんがいったように、東京ガスは特殊で、配当が非常に高いことで投資家が計画的に持っていて、そこで急に下げられたら困るというのがあるかと思うんですが、そういう時に長期にインパクト投資を目指している時は、前回のシリーズで短期的な株価の変動は気にしないという議論をしたと思います。ところが、多くの投資家が長期の企業価値、もしくは経営姿勢に対してネガティブな反応を示したということになるのだと思いますが、こういう時はどういう風に行動をとりますか?

Tさん
うーん、スパンの長い話なので、まだ分からないと思うのですよ。長期でみれば結果的に戦略としても株価としても評価される「かも」しれない。でも基本的にはHさんとかと同じで、よく説明しないといけない、そして戦略は一貫性がないといけない、投資家としてのエンゲージメントを問われるならそれを促すと思います。みなさん統合レポートなどを一生懸命書かれており、そこでは財務と非財務を組み合わせた目指したい将来が見えると思うのですが、今回のケースをみると、やっぱり財務戦略と、ESGを含めた将来に向けた経営戦略がどう結びついているか一貫性がないように感じられ、不信感が出ているのではないかと思います。例えばこの会社はROEがずっと下がっていて、それが配当を強化していくことで資本効率を維持していこうという戦略を取っておられるに見えたんですが、今回の話は、そことの一貫性がありません。もちろん企業としてのNPVを下げてまでやるんだということは会社の判断としてはあるのかと思いますが、そこに対しては投資家はNoだと言っているんじゃないかと思うのです。会社の説明は“生き残りのために環境対策が必要です、今やらないともうだめです”という書き方をされているのですが。環境対策がきちんと企業価値と結びついていない感じがしました

MC
つまり、今回の説明だと、今回多少減配しても最終的に企業価値はあがるのだという、そもそもの計画が見えていないということですね

Tさん
ひょっとしてまだ考えておられないような・・・ESG戦略が経営戦略としっかり結びついていないような。「生き残りのため」とおっしゃいますが、本当に生き残りについて考えていますか?みたいな。

MCさん
生き残りのために必要といいながら、あまり練れていない計画をだしたような?

続く

上場株インパクト投資の研究 3章(5)

資産運用業界の仲間たちと一緒に、「インパクト投資を上場株に適用する」をテーマとして研究を始めました。スマートフォンアプリのClubhouse上で毎週様々なディスカッションを行っています。皆さまも是非ご参加ください。また本ブログではこの議論の内容をコンパクトにまとめて皆様にお送りします。

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上場株式でインパクト投資 3章 3回 

2021年5月26日

(このブログは毎週水曜日に、クラブハウスでオンエアしている“上場株でのインパクト投資”を綴ったものです)

MC
では、今日はまだKさんが接続していないし、前回最後にTさんが上げてくれた事例で議論したような、これまで投資してきたケースで、気候変動のポジティブインパクトのKPIをうまく企業価値向上になるように設定できた、あるいはできなかったケースについてHさん、お話しいただけませんか?

Hさん
自動車業界についてちょっと話したいなと思うんですけど。自動車業界はCO2などの排出量の規制があって、その達成に向けてどの会社も努力していますが、その時日本の会社って、自分たちがEVカーや、燃料電池の技術力や販売目標はどうですみたいな説明はできているのですが、その場合にコストがどう変わり、企業価値がどう変わるかについてあんまりうまく説明できていないと思います。“環境に良いこと”だからやるし、やらなきゃいけないという説明はされているんですけど、企業価値につながる部分になると長期的な説明になっていないわけです。同じようなことは他も業界でもあるかもしれませんが。たとえば同じEVやっているといっても、テスラなんかだと、自分たちのプロダクトがなぜその価格で受け入れられるかが明確に説明できていると思っています。つまり彼らは顧客目線に立ってなぜそれが受け入れられるかの説明が出来ており、それが不可欠だと思います。例えば私が数年前に、オランダに行った時の感覚ですとタクシーの半分以上テスラという感じでした、これはウーバーでもです。理由を運転手に聞いてみるとテスラは売値と買値と、何キロ走ったらキャッシュフローがどうなるっていうのが電気なんで完全に読める。他の自動車を買うとガソリン価格も動くので、買う方からしても商用車であれば利回り的にテスラしかないということが明らかだという事を運転手自身が説明してくれました。つまり消費者側の計算もでき、それによって何台売れるかということも明確にある、それが説明できているのです。その辺を自分はエンゲージメントしていきたいと思います

MC
ありがとうございます。Hさんが言いたいことよくわかります。自分も数年前気候変動のことを国内の投資家の集まりで話すと必ず“気候にいいことだからといって、企業がそれだけやるのでいいのか?!”みたいな言われ方をして。でもその頃ヨーロッパではまったくそういう捉え方ではなくて、まず燃料費が安いからとか、メリットが前面的にでていたので随分ギャップがあるなと思っていました。日本の自動車会社は説明は確かにうまくありませんが、消費者の側は必ずしもそうではないのかなって思います。自分もプリウスを10年以上乗っていますが、燃料費も全然違うし税金も違います。でも国内でプリウスタクシーですらあんまりみかけなかったですが、ヨーロッパではテスラが出てくる前はタクシーならプリウスだけっていう時があったのに。国内ではなにか他のハードルがあるんじゃないですかね?コストや利益に対する執着であれば、国内の産業も相当あると思うんですけど。税制や燃料費など全体的に環境車のほうが今でもメリットはありそうですけど、まだ足りないとか。また日本の自動車会社は消費者の嗜好はかなりしっかり抑えていると思うんです。だから国内では消費者のニーズがまだ少ないのかな・・・

Hさん
あ、そうです。利益については追求していると思います。ただそれを企業価値にリンクさせて投資家に説明できてないし、お客さんに対しても、いったいそれがどういう経済的なメリットがあるかも、あんまり説明できていないと思います。

MC
Kさん、やっときました。よかったです!

Kさん
すみません、寝坊しました。

MC
遅くまで仕事していましたか?今ちょうど前回の復習とこの前Tさんが出してくれた事例のように、気候変動にいいことをKPIにしていて、それが企業価値とちゃんとリンクしたケースがあったかなど事例を紹介していただけますか?

Kさん
そうですね。一件、北陸の会社で、自分で重油をたいて発電している会社があったのです。発電だけじゃなくて熱もえられてコストがかなり下げられたのです。それが会社のメリットだとアピールされていたのですけど。私も10年ぐらい前はわからなかったんですが、やっぱりCO2の問題からこれを続けていいのかということになり、やっぱり重油をたくのやめるしかないのかなと、会社の方も気がつきまして。今重油からLNGに変える取り組みをしています。それでもまだCO2でるのですが、それでもだいぶ抑えられますし

MC
つまり、最初はコスト削減という企業価値への向上ということで見ていたと。しかしその後それを昨今の社会的な議論から見直そうということについて・・・Kさんはエンゲージメントをしていた?

Kさん
うーん、エンゲージメントまではしていなかったかもですが、話せばその話題がでていました。社内でもそういう議論になって。

MC
やっぱり環境の問題って投資家だけで話を推し進めるのは難しいのかもしれませんね。
Tさん、今の事例についてコメントもらえますか?

Tさん
あの、まあなんでしょうね。やっぱり気候をテーマとした時、CO2の削減量とかがKPIになるのかという意味においては、キャッシュフローと連携して、論ずるべきというお話しだと思うんですけど、それは大いにアグリーです。ちょっと思い出したのですが、過去に投資していた企業についてもうひとつ事例を言っていいですか? 温暖化ガスの排出を抑える上で非常に有効なエアコン用の化学材料を作っている会社の話です。事業内容的にはグローバルでみてもESG投資のスタンダードになるような会社でした。ただ、この会社の良い社会的インパクトを継続的にするための経営課題は何なのかを考えた時に、重要だと思ったのは良いインパクトを持つ製品をいかに安定供給するか。という事でした。彼らしか作れない製品であることから、お客さんは彼らの作っている材料を少しでも買いたい。しかしただ買いすぎると顧客側で在庫が積み上がり需要がなくなる時期も出ます。
結果として堅実な経営を志向する彼らは投資に対し及び腰になっていました。そこで我々が提案したのは需要予測精度の向上です、数ヶ月から一年を見越した需要予想ですね。その手法について提案し、さらにそれに基づいてきちんと設備投資をしませんかと提案しました。私はこの会社はCO2を減らす良いインパクトはあるのですが、彼らにとって大切なKPIはCO2の削減ではなく、適切な設備投資や生産の平準化であると思っており、それがきるかみたいなところをモニタリングしてきたのですが・・・やっぱりKPIって個社独特だと私は思うのです

MC
ありがとうございます。今の話も気候変動のインパクトと、実際のKPIが違うという重要な例だと思うのですが、気候変動のKPIが難しい例なので、ちょっとHさんとKさんの話に戻っても良いですか?
Kさんのおっしゃっていた例は規制とか出てこないと、コスト的にメリットがあっても会社の収益モデルに影響が出てこないわけですよね。社会が何も言わなければ今のままの方がいいかもしれない、規制が厳しくなり炭素税が乗ったりしないと数字としては見えにくいということですよね。そしてHさんのケースは消費者の意識だとか色々なものあって、
もちろんHさんが言っていたように会社が消費者にメリットをしっかり説明することも大事ですが、自動車の場合環境車が売れるとダイレクトに社会にインパクトも企業価値も上がると思いますが、これもまた個人の嗜好だとかに影響を受け、また自分の場合も税制などの差がすごくなければ躊躇するかもしれないと思うのですよね。だから政府が“今年からハイブリッドカー値上げ!EVカーだけ!”と言うかどうかってものすごい影響が大きいと思うのですが、どうでしょう?

Hさん
本当にそこが難しいと思います。企業は今の政府の税制とかにあわせて販売戦略も考えるし製品を出して行くわけです。ただEVはハイブリットと異なり走行中に出すものにかぎればCO2がゼロになるわけです。ハイブリットや燃費の良いガソリン車の場合は減らすって事が出来ても計算式も複雑になる。だからゼロだっていうのが大きいと思うのです。企業の選択も過度的なのかどうかは重要です。Kさんのお話にもありましたが、その時の規制にあれば、コスト的にOKみたいな考え方はあって、でも過度的なものに投資する場合は変数が複雑になるので長期投資の我々には難しいものがあると思います

Kさん
規制との関わりでいうと、正直規制のほうがアクションが早いと思うのです。やらなきゃいけないからやりますよっていうのは、誰に対しても言いやすいです。そのための投資の決断もしやすいです。でもまだ規制が入る前の段階でやっていくには「なんでやるの?」ということになります。「まだハイブリットカー売れるのじゃない?」という時、全部EV
に替えていくっていうのは、政府の支援もあまり受けられないでしょうし、反対を押し切らないといけないというのもあると思います。でも今の社会は変わりつつあり、そこで消費者の声って大事だと思います。だからまだ重油で発電しても良いよねと言われても、考えていかなきゃいけない、と思っています

MC
ありがとうございます。Tさんいかがです? すみません、さっきはTさんがまた出してくれた事例を飛ばしてしまったのですが

Tさん
「いえいえ・・・うーん。またお二人の話を聞いていて違うことを考えてしまったのですが、社会の動きとか、規制で変わって行くというのは事実なのですが、ぼくたちがインパクト投資っていうのを考えた時、それらの変化を読んでいくことも重要ですが、自分たちのフィデューシャル・デューティとしては、どれだけ主体的に変化を起こせるかということを考えるべきじゃないかと思っていて。また規制などが変わったとしても、何か自分たちが考えたことを達成できるような、比較的短期のアウトカムともあるべきじゃないかと思ったのですが

MC
はい、ありがとうございます。そうですね・・・あのまた話のコシを追ってしまってすみません、ここで質問が来たのですが・・・。あと5分ですが、話せるところまで話したいと思います。えーいただいた質問は、東京ガスのケースです。気候変動に対応するために、資本配分を替えて行く、つまり何か資本投資をするという時に、必然的に配当がへるわけですが、こういったことに長期の投資家はどう考えるべきか、ましてや“気候変動の対応をしなさい、しなければダイベストメントしますよ”と言ったような投資家は本来どうずべきか。みなさまどうお考えになりますか?」

Kさん
「投資家は社会の中にいる存在だと思いますので、社会の動きをみながらやっていかざるを得ないのかなと。重油の発電のケースは10年以上前ですが、当時私も悪いことだと思わなかったのです。効率が高まって良いのじゃないかと思っていました。その考えが変わって行くのは重油で発電するならCO2がたくさん出る、だから天然ガスのほうがいいのじゃないかとか、それは社会の変化の中で私自身も変わって行ったというのがあるのかなと。だから考え方を替えて行くためにどうしたらいいのかは自分なりに考えていかないといけないと思います

MC
ただ私は、Kさんは投資において、配当政策は厳しい方だと思ったのですが・・・。重油で発電していた会社がLPGに置き換えたら一時的に投資のコストがかかるでしょうし、オペレーショナルにも高くなるかもしれない、それは株主へのリターンを減らすかもしれない、ということについてはどうでしょうか

Kさん
でも経済的価値といえば、それによって消費者が反発し売り上げが減ったら困るわけだから・・・あるいは従業員が離れていってもマイナスだし。企業は社会の中でどうやって認められて行くのかを考えなければならないのかなと思います。
Hさん
私はこれってシンプルな話だと思っていて、彼らが行った投資が企業価値をあげたらいいと思うのです。配当まで削って投資して、それで企業価値が上がらないのだったら当然それはマイナスです。今は金利すごく低いので、配当で出すより、ちゃんと投資して企業価値があがればその方がプラスになるはずです。

Tさん
私も来週お話しできたらと思います。投資をやるかやらないかは、生き残りをかけたクライメート対応への経営判断として話す話かもしれませんが、何でファンディングするかとは別の話で。例えば配当を維持してその投資ができないかというのはガバナンスの問題だと思います。

MC
では続きは来週話しましょう!

続く

上場株インパクト投資の研究 3章(4)

資産運用業界の仲間たちと一緒に、「インパクト投資を上場株に適用する」をテーマとして研究を始めました。スマートフォンアプリのClubhouse上で毎週様々なディスカッションを行っています。皆さまも是非ご参加ください。また本ブログではこの議論の内容をコンパクトにまとめて皆様にお送りします。

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6月30日も、お昼の 12時30分より Clubhouse Meeting を行う予定です。

上場株式でインパクト投資 3章 2回下

2021年5月19日 

前回の続き


Hさん
KPIの置き方というのをインパクトを与えるもの自体にしなくていいのでしょうか。その会社が成長していくと結果的にCO2を減らすことができたとしても、CO2の削減目標ってもの自体がなかったとすると、それってインパクト投資のKPIとして適切なのか?と。CO2をもっと減らせる家を作ったとして、しかしその時は(よりコストがかかるなどして)会社の収益を伸ばせなかった場合、企業価値は上がるのでしょうか?

Tさん
・・・な、なるほど。それは考えたこともなかったです。というのは、その会社の企業としての存在意義は、CO2を減らすことだけじゃないと思うのですね。利益をだして従業員を守っていく・・・。即答にはならないのですけど・・・CO2を75%ではなくて、90%減らせる住宅を作ったのでそちらを集中的に売ります、ただし利益は減りますということ。つまりCO2の目標値をクリアできるのであれば利益を減らしてもいいじゃないかということであればそれは違うのかなと。大切なのはCO2を減らすことだけじゃなく、CO2を減らしながら利益を出すことではないかと。

MC
今のケースだと、気候変動だけをフォーカスしたインパクトを考えると、例えば住宅に、欧州なんかであるかもしれませんが、CO2をより減らした住宅を取得すると税制上のメリットがあるとか、そういう“必ず売れる”という政策とセットでないと、そのKPIは利益の予想とリンクしないですよね。そういうことを質問者さんは聞いているのじゃないかと思いますが・

Tさん
いや、そのあの、CO2の削減量だけを目標にしてしまうと、質問者さんがおっしゃるように、政策サイドで「あの目標は間違っていた」とか「そこまで厳しいターゲットでないほうがいい」など後で方針が変わりましたとか言われてしまうと、企業としての取り組みは変わってきてしまうと思うのですね。だからこれは暴論かもしれませんが、私の意図しているインパクト投資としては自分たちの投資のKPIになりえないのじゃないかと

MC
ありがとうございます。Hさんいかがです?

Hさん
あの、すごくよくわかるんですけど、それって、この会社の業績が伸びていくと言う前提があって、その会社の業績が伸びたら結果としてCO2が削減されますねってことなのですよね。そうするとCo2を減らすっていうのがKPIになってないというか、販売数がKPIになっていて、その従属変数としてCO2と業績がでてくるということになっている

Tさん
そうです。そうなのですよ。これだからそのインパクト投資なるものの設計って結果に対する、いわゆる、ロジックというか、成果に対し達成していくロジックがしっかり確立していることが重要で、かつそれに対し、投資家のインターベンション、介入が必ず求められていると思うんですよ。この企業においては、我々は売り上げをきっちりストレッチさせる、つまり事業を通じて環境にも貢献できる、それを加速できるというのがぼくたちのインターベンションじゃないかなと思っています

Hさん
ですので、そういう会社の場合は、CO2を減らすことができる住宅ができたら、その分だけ価格があがって、マージンが確保できる、買った人が何年間かで価格分を回収できるっていう、そういうシミュレーションがあって開発できたらいいなって

Tさん
はい、そうです、それもありです。

Hさん
そういうのがないと、なかなかKPIになりえないのかなと

Tさん
あ、そうです。とってつけたようですが、それもありです。ただKPIとして販売数とマージンの両方を置くととても難しくなるので

MC
つまり質問者さんがいっているとおり、KPIは複雑だと? Kさんはこの件について何かありますか?

Kさん
じゃあちょっと違う視点から・・・今、量の話がありましたが、時間も大事かなと最近思っていまして。ある会社が児童労働を2030年までにサプライチェーンでなくしますよっていっていて、それはいいことだと言われていますが、2030年って、あと9年間はつづくわけですよね。9年だと今10歳の子が19歳。だからそんなにのんびりやっていていいのかと言うことも、考えていかなければならないと今思っているところです。

MC
はい、ありがとうございます。では次の質問にいきましょう。“気候変動に関する投資は他のESG課題より早く重要性が認められた印象があります。欧州の理念や学術的な懸念の浸透が早かったのが要因だと思いますが、ファンドマネージャーとしてはどう思いますか?”これについてコメントをいただけますでしょうか

Hさん
あの・・私の認識としては必ずしもEの話が最初にきていると思っていなくて、日本では今ちょうどそう言うタイミングですが、ESGでいえばGなんか昔から各国で続いている話ですし、Sの話はESGというものをフランスとかオランダが導入した時Sが一番強調されていたと思います。年金の制度を変える時、労働組合のほうはSを注視した会社に投資することを条件に改革を受け入れていると言う経緯もあって、国ごとにその背景は違うのかなと思います。ここにきて地球の気候もすごく荒れていますし、今気候変動(E)がすごく盛り上がっていると思いますが。科学的にどこまで立証されているかとか、よくわからないですけど。少なくとも今は実証されているように説明されているので、そこのところあんまり反発しても仕方ないので、そう言う流れに乗っているというところじゃないでしょうか。

Kさん
流れに乗っているというのは、本当にその通りで。でもみんなで言えると言うことの良さも感じていて。みんなで言えば企業も聞きやすいだろうし、そう考えたらいいのかなと思っていますけれど

MC
はい、ありがとうございます。ではTさんいかがですか?

Tさん
あの・・なんかでも色々読み物も見ているんですが、Eって増えているんですけど、多いのはGとかのほうがまだ多い気がして・・・でも変化は起こっていると思います。これまで欧州の人はクーラー入らなかったのに、夏にクーラーが必要になったとか、オランダって治水の問題がえらいことになっているとか、Eに対する潜在的な意識はあったと思いますし、人類共通の課題として認識しやすいというのがあるんじゃないかと。またそれをパッシブのユニバーサルオーナーとして、課題として取り組む上で取り組みやすかったというのがあるんじゃないかと思います。ある意味メカニカルに横比較できるし。ただ、そこで思った以上のマネーフローが起こっていて、投資家がそこに追随する中で株式市場内での需給が変わってきちゃって、なんだかわからないけどとにかくEだって言っているケースもあるんじゃないかと思います。今日お話ししてつくづく思ったんですけど、アクティブで、個別にアウトカムを意識してインターベンションを意識した投資をやっていく上ではEって難しいですよね・・・。

MC
はい、ありがとうございます。みなさんがおっしゃったようにGのほうが歴史も長く、いろんなCGコードを導入した国で政策とかも古くからセットになって、投資家も動員して一緒に企業のガバナンスを良くしましょうという投資もあったと思うんですよね。でもこの質問者さんがおっしゃりたいことは、他のESG課題より早く重要性が認められた・・ではなく気候変動はただ他のEの課題よりも早く重要性が認められた・・・ではないかと思っているのですが、GとSはダイメンションが違う気がするので・・・。もしそう考えた時、Eの中にはいろいろな可能性があって、気候変動が非常にハイライトされている。排ガスとか・・・でもゴミの問題だともっと重要だと思いますけど。

Tさん
難しいですよね。ペットボトルを見て、悪の根源だと思う国もあれば、まだクリーンでリッチになった象徴だと感じる国もある。ただまあ、ぼくフィリピンの人とよく話すんですけど、彼らは環境に対する意識すごく高いですよね・・・

Hさん
私もこれからどんどんそういうの出てくると思うんです。特に今の消費の主体となっているZ
世代はすごく感心があるということで、いろいろな企業が広告の対象にしたい世代の人がそう言う高い意識を持っているということで、企業も意識しているし、無視できなくなってきていると思います。

Kさん
今フィリピンの話がでましたが、ケニアとかルワンダとか、ポリ袋に関してはすごく厳しくなっていて、現地に行って思ったんですけど、環境は先進国だけの問題じゃないということは認識しなくちゃいけないし、日本はそういう意味では遅れていると思います。

MC
そうですね。テーマとしては重要だと思うんですが、投資のテーマとして気候変動が取り上げられたのは、それがESG的に、前の質問者の方のご指摘じゃないんですが、ESG的に良いことかどうかも重要なんですけど、気候変動が産業にとって重要だったからという見方もできると思うんですね。気候変動に向けた事業にもっと投資して欲しい、今のところゴミの問題についてそういうアウトカムが見えにくいのかもしれないと思ったり・・・。

Kさん
法律とか政治でできることもあると思っていて、そういうのとあわせてやっていかないといけないんじゃないかと思っています。

MC
Eについては、G以上に“投資家の力を借りたいい”というのを堂々と言っている政府やレギュレーターもいるので、優先順位付けが出てしまう、これが二人目のご質問者の方が質問したかった背景にあるんじゃないかと思います。では時間になりました。次回もご質問を受け付けていきたいと思います。ぜひみなさまご意見・ご質問お待ちしています。

(続く)

上場株インパクト投資の研究 3章(3)

資産運用業界の仲間たちと一緒に、「インパクト投資を上場株に適用する」をテーマとして研究を始めました。スマートフォンアプリのClubhouse上で毎週様々なディスカッションを行っています。皆さまも是非ご参加ください。また本ブログではこの議論の内容をコンパクトにまとめて皆様にお送りします。

ンク:「上場株でのインパクト投資」常設クラブ(Clubhouse内)

6月30日も、お昼の 12時30分より Clubhouse Meeting を行う予定です。

上場株式でインパクト投資 3章 2回上

2021年5月19日 

(このブログは毎週水曜日の12時からクラブハウスでオンエアしている“上場株でのインパクト投資”を綴ったものです)

MC
では、今日も“気候変動のように政策が反映するがゆえに、独特のターゲットやKPIをもつような投資”について続けて話していきたいと思います。ところで、クラブハウスのお知らせ画面にご案内しています通り、今日からは質問を受け付けています。
さっそくいただいた質問をみてみましょう。“自分はインパクト投資は理念として<いいこと>が重要だと思っています。ところがこの<いいこと>をファンドマネージャーがどのような論理や仮説で予想したかが重要ですが、気候変動については複雑すぎて論理的に仮説も検証もできないのではないかと思っています。またその仮説を満たすKPIも業績と連動するように置くのは難しいのではないでしょうか、それでアセットオーナーに説明できるのでしょうか”ということを疑問におもっていらっしゃるそうです。これについて皆さんどう思うか、聞いていきたいと思います。ではKさん

Kさん
気候変動自体が非常に大きな問題ですし、その中で企業がどうとらえていくか、どう対応していくか、色々みなさん太陽光発電使ったりされていると思いますし、そういったことはしっかり説明できるでしょうし、それに効果も数字では表せると思います。ただ単純にヨコ比較でこちらの方がいいですよ、といわれてもそれはちゃんと考えていかなければいけないと思います。また時系列的にどうなのかとか。・・・企業にとってできないことではないと思っています。

MC
うーん。ありがとうございます。ではHさん。

Hさん
<いいこと>というものの定義が難しくて。なんとなく環境にいいというだけでは、我々は投資できないのかなと思っています。インパクト投資っていうのは自分たちが設定しているKPIがしっかり業績に結び付いてくる、というか企業価値にむすびついてくるという前提がある会社にしか、投資できなくて、<いいこと>はやっているんだけど企業価値につながらない場合は投資にはならないと思います。逆に<いいこと>のKPIが企業価値に結び付いていれば、アセットオーナーにも説明できると思っています。

MC
つまり、気候変動のためにやらなきゃいけないことは色々あって、企業側もこれに投資したいっていうことはあるかもしれないけど、Hさんとしては大前提としては企業価値と結びつくもの、もしかして政策の変更による揺らぎが起きにくいものなのかもしれないけれど、説明できるものであることが、重要だということですね。

Hさん
そうですね、やらなきゃいけないことがたくさんあって、それが企業価値に結び付かない会社がいっぱいあるんですね。それはインパクト投資に向いていない会社、ということだと思います。その会社がいいとか悪いとかではなく。で、われわれがインパクトに対して投資をするという場合は、それと企業価値がリンクしているところに投資をするけれど、インパクト投資の投資対象にならないからといって悪い会社というわけではないし。。。企業価値があがらないわけでもないです。そのインパクトと企業価値が結びついているということが前提にあれば、気候変動でも難しくなく判断できるんじゃないかなと思います。

MC
ありがとうございます。ではTさん

Tさん
・・・そうですね。なんかいろいろなことが結びついていると思うのですけど、あえて誤解を恐れずにいえば、そのKPIなるものが企業価値を説明できないのであれば、それはインパクト投資とは言えないのじゃないかなと思うのですよね。環境省とかが出しているレポートとか、読んだりしているのですけど、インパクト投資を包括型、特化型とわけてらして。包括型は使途を問わないコーポレートローンだったり、或いはパッシブのインデックス型投資、ここについては網をかけるような投資になるので、その中でKPIとして何をおいていくかでカーボンフットプリントとか出てくると思うのですが、私はアクティブ投資ですし、そうするとインパクト特定型、つまり特化型なのですがこれは“上場企業投資には適さない”と書いてあるのです。でもぼくはむしろこれで行けると思っています。定義がまだはっきりしていないというのもあるのですが、GIINとかが作っているインパクト投資の定義として、そもそもどういうインテンションがあるのか、金銭的リターンがあるものなのか、モニタリング可能なのかといった実績に基づいて言えば、KPIってリターン=企業価値とリンクさせられるべきですし、させていないといけないと思いますし、そうでないとインパクト投資と呼んではいけないのではないかと思いますね。

MC
うーん。じゃあ、例えば“こんなケースだったらインパクト投資”っていえるかなという事例ある方いらっしゃいますか?

Tさん
うーん、とそうですね。“これぞインパクト投資でございっ”っていうのはないのですけど、意識しているものとしては、たとえば温暖化ガスそのものがKPIかというと、そうではないのです。長期投資的にみたアウトカムとして地球の環境を守っていきたい、それには温暖化問題は重要で、それにはCo2をどうコントロールするかが重要・・・というのは一つのアウトカムでKPIだと思うのですよね。ずっと応援している会社で、地方の中古物件を扱っている会社があって。リノベーションをしてきれいにして売っていく会社があるんです。中古物件で新築に比べてCO2が3/4ぐらいで済むのですね。私はこの会社がどんどん伸びていくことが社会にとっても地球にとっても良いことだと思っているのですが、実際のエンゲージメントとして何をやっているかというと、“どんどん伸ばしてください”と言っている。経営者は放っておくと、守りを固めてしまうところもあるので、“まだまだ増やせるんじゃないですか?”、“こうやれ増やせるのじゃないですか?”なんて言っている。結果としてKPIとしては中古物件をどれだけ増やせたかで、それを増やせればCo2も減ると、そんな風に考えているのですが

MC
なんとなく、今パッとお聞きして、これはCO2削減が“インパクト”なのか・・・そのためにやっているわけじゃないのですものね。

Tさん
あ、はい。もちろん複合的なんですよ。超長期のアウトカムとしてはCo2の削減を通じて地球環境に良いことができる・・・ということになりますが、その前のところにいたっては、土地の周辺部の社会環境をよくするというのもありますし、長期、中期で違うんですけど、一つそれを束ねているのが祖業としての中古住宅の再生件数というのが全てにいい影響を与えていると、そんな風に考えています。

MC
まあ複数のインパクトがあれば、ただ昨日から話しているのは“気候変動は難しそう?”なので・・・

Tさん
そうなのですが、削減量を企業に要求してしまうと、結果的に企業価値につながらない。
危険性もあると思うのですよね。

MC
・・・なんとなくこの質問者さんの御指摘通り?

Hさん
あの・・難しいところだと思うんですが、たとえばKPIの置き方というのをインパクトを与えるもの自体にしなくていいのかな?って思っていて。その会社が成長していくと結果的に社会全体のCo2を減らすことができたとしても、Co2の削減目標ってもの自体がなかったとすると、それってインパクト投資のKPIとして適切なのか?というのはあると思います。先程の例でいうと、中古物件でリノベーションを行うと新築に比べてCo2を3/4ぐらい減らせたとしても、より高い技術で8割、9割減らせる家をリノベーション手法で開発したが、コストが上がって価格に転嫁できず、その会社の収益を伸ばせなかった場合、その会社のCFから見た企業価値は上がらないとした場合、どんなふうに判断したらいいのでしょう?

Tさん
・・・な、なるほど

続く

上場株インパクト投資の研究 3章(2)

資産運用業界の仲間たちと一緒に、「インパクト投資を上場株に適用する」をテーマとして研究を始めました。スマートフォンアプリのClubhouse上で毎週様々なディスカッションを行っています。皆さまも是非ご参加ください。また本ブログではこの議論の内容をコンパクトにまとめて皆様にお送りします。

リンク:「上場株でのインパクト投資」常設クラブ(Clubhouse内)

本日、6月16日も、お昼の 12時30分より Clubhouse Meeting を行う予定です。

上場株式でインパクト投資 3章 1回下

2021年5月12日 

(このブログは毎週水曜日のお昼からクラブハウスでオンエアしている“上場株でのインパクト投資”を綴ったものです)

Tさん
たとえば脱炭素で東南アジアのプラントから撤退という話が出た時、人類にとってはいいことかもしれないけど、そこで生み出されていた雇用みたいなものをどう考えるべきか。ちょっと事例としてお話しすると、私はかつてペットボトル製造装置を作っているところがありました。非常にいい経営で資本効率も高く、利益率も高く、株主利益を生んでくれる会社でした。経営陣としては、今、ペットボトルは自然破壊の権化みたいに言われていますが、軽くて造形性が高く、途上国においてはリッチになっていく象徴だったんですね。だから生活が向上することに貢献していく一方で、それが捨てられることによって自然環境を破壊するという両面があって、私がその時言ったのは“企業価値をどんどん作っていくという意味で応援したい、ただその中でサステナビリティを高めるために、少しでも再生可能なペットボトルの方にシェアをもっていくような経営をしてくれないか”という提案をしました。だから私もインパクト的には“途上国の暮らしをよくする”のほうにベッドしようと考えました。

MC
今のTさんの話は、環境問題でひとつのインパクトを考えていた時、他の雇用とかのインパクトとバーター関係になってしまうことがあって、そのジレンマで苦労されたと・・・今のようなケース、Kさんはどう思いますか?そのオランダのケース、環境を重視したために、何かが不便になるとか、そういうことはありませんでしたか?

Kさん
不便になることはあると思います。お金も使うんでマイナス要素もあると思います。でもそれでも、お客さんがついてきたりしてプラスの要素がある、総合効果を考え、企業が永続していくと考えてプラスになると思いながらみんなやっているんじゃないかなと思います。

MC
あと今のTさんの話は、以前Hさんが言っていた、“大きな方向としては問題なんだけど、細かいところをみるとそのために潤っていて株価が上がっていたり、雇用が伸びていたり・・・だから一件、一件丁寧に見ていなくちゃいけないと言っていたと思いますが、Hさんどうですか?

Hさん
そういうことってすごくあると思います。でもそういう時、本当に企業は長期的な価値を生むかが重要なんだと思うんです。わかりやすい例としては・・・・たとえば製品でトラブルが生じて、全部回収したとかいう会社もあったと思うのですが、そういうところで消費者のことを考えて行動した、ていうような。わかりやすい部分と、そうではなくてこっちをやると、あっちが困ると結論が分かりにくいもの、そういうのが困ると思うんです。

Kさん
Hさんがおっしゃったようなことって本当によくあると思うんです。たとえば夕張の町を考えたら、町自体が破綻したわけで、転換していくのは非常に難しいことだろうなと思っています。

MC
昨年、オーストラリアの投資家と議論する機会があったんですけど、その時聞いた話として、“今雇用がある”といってもずっと続くのかも投資家は考えなくちゃけない、と。つまりその企業のビジネスがサステナブルなのか・・・それがこのサステナブル投資などの議論の始まりだったのではないかなと。レギュレーションや環境の変化によってビジネスは変わるわけですよね。そのベットボトルを購入している先進国のトレンドが変わって、売れなくなるかもしれない。投資家は早めに先をみて企業に言っていかないと長く投資をすることが難しいということじゃないかと。

Tさん
それはその通りだと思います。これがインパクト投資、多くの人にとってプラスになることを生んでいくものなのではないかと。協会のチャリティーと比べると、我々は上場株に投資をしているわけで、そのインパクトを大きくしていかなければならないのですが、逆に忘れてはいけないのは、どういったポジティブを本当に生み出したいのか、そこにくっついてくるネガティブをミニマイズする・・・そう考えると企業サイズが大きくなってくると難しいのかなと思ったりします。

MC
そうですね、ESG全体のいろいろな要素のなかで、“セット”になっている、ポジティブとネガティブで、裏表になっているようなインパクトがあるかもしれない。ところで雇用もそうですし、前回の人権問題などは、多くの人がどう考えるかに投資先企業の将来は影響を受けるのかなと思うんですが、環境はレギュレーションとか、政策の影響を受けるのかなと思うんですよね・・・。企業の事業において、途中で転換するのが難しいようなことがあって、だからレギュレーションなんかの動きをウオッチしなければならない・・・そう感じることはありますか?

Hさん
すごくあると思います。特に日本の企業とエンゲージメントする時気をつけなくちゃいけないことがあって、日本の企業ってまじめなので、“本当はこれがただしい”ということを自分たちで一生懸命考えて行動していることが多いんですけど、それがグローバルなスタンダードをみると違ったりする・・・・ということがよくあるんです。でも環境とかはいろいろな考え方があるけど、独りよがりではいけなくて、ヨーロッパではこうなっているけど大丈夫かとか、きいてくことが大事だと。

MC
日本の企業でよく、“そうはいってもこれが必要”という人けっこういるんですよね。2度シナリオがいいとか、1.5度が必要とかいう人がいますが、それがいいか悪いはともかくとして自社だけでどうにもならない、影響がレギュレーションとか政策からやってくる、そういうのは環境にいいかどうかだけを真剣に考えると歯車が合わない感じがしますね。

Kさん
ちょっと外れたこと言っていいですか? 企業って変わっていかなきゃいけないと思うんですよ。さっきTさんが大きな会社は変わりにくいんじゃないかというような意味のことをおっしゃったおと思いますが、企業を変えていくために投資家ができることは、やっぱり背中を押してあげることじゃないかと思っているんです。投資家が集まれば、それが大きな声になっていくと思っているんです。昨日JSRという会社が発表をしたんです。ゴムの会社で、タイヤを作るための国策会社なんですけど、タイヤ部門を売ると。そういう祖業である事業を売ってもやっていくんだぞ、と。大きな会社でも変わっていけるんじゃないかなと。

MC
そうですね。たしかに環境関係で、大きな会社で鉄を作っている会社で、ずっと高炉は石炭じゃなきゃダメなのだっていっていた会社も、水素で製鉄するとかいう時代ですから、大きな会社がコアビジネスで変わらなきゃいけないことがあって、そういう時に投資家が向かい合う時もありますよね。で、それとは別にさっきHさんがいっていたのは、企業が一生懸命変わろうとするんだけど、環境に関することはレギュレーションの影響が大きいので、自分で“良い”と思うだけではダメという点についてはどう思いますか?

Kさん
・・・そうですね。企業が独りよがりで考えている、って結構多いかなと。まじめにいいことやろうとして、たとえば太陽光のパネルを、畑を潰して接地している遠路がよくあるのだけど、それがいいことかと言われると、私は少なくともいいとは言えないと思います。
だから目的がどこにあるかを考えながらやっていく必要があるし・・・。

MC
あと2分です。最後に一言ずつ、おっしゃりたいことがあれば。まずTさん、いかがですか?

Tさん
そうですね、私はどんなであって企業も生き残って、ちゃんとやっているということは、社会の何らかの便益を満たしていると思うのです。で、私が社会インパクト投資を上場企業への投資で取り組もうと思った時に考えたことは、“いいところもあるけれど、悪いところもある”ということになると、やはりターゲットを決めていいところのインパクトに力を入れて、悪いところを少しでも落としていくということにフォーカスしていかなければいけないのだなあと思っています。

MC
時間がきてしまいました。Kさん、Hさんへの質問は次回取り上げます

続く

上場株インパクト投資の研究 3章(1)

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上場株式でのインパクト投資 3章 1回上

2021年5月12日

(このブログは毎週水曜日のお昼にクラブハウスでオンエアしている“上場株でのインパクト投資”を綴ったものです)

MC
いよいよ第3シリーズです。シリーズ1では、インパクト投資をどう思うか、インパクトの実現と企業価値、アセットオーナーとの対話、企業との対話など全体をざっくりと話してきました。そして第2シリーズでは大きなトピックは2つ。まず長期に実現するインパクトを目指しているなら上場株のほうが向いているよねという話。インパクト投資はもともとプライベートエクイティなどで取り組まれていたと思いますが、将来実現する社会にポジティブなインパクトを企業が目指しているならば、手前で多少費用が掛かろうが、投資が終わるまで利益がでなくても、株価に影響はないだろう、例えば自分の投資期間が短いアセットオーナーでも株価に揺らぎがなければ投資できるよねという話です。それからウイグルやミャンマーのような状況の時投資家はどう考えるべきかについても話しました。さて今回のシリーズ4回では、インパクト投資でわりと取り上げられることが多い気候変動について取り上げてみたいと思います。伝統的なのでは井戸を掘るとか、ごみを減らす、資源を有効に使う、有害な素材を置き換えるとか、社会が急激に価値観を変えることがなければ、一定のアウトカムと収益を見込みやすいです。ただこれらのテーマは解決策が技術的に正しいのか、見極めるのが難しく判断に迷うという悩みもよく聞きます。この環境とか気候変動について、これまでの投資で、“いい取り組みをした”とか逆に“悪い状況なので良くしたい”とかそういった投資をしてきたか、その場合どのように考えられたかをお聞きしたいと思います。ではKさん。

Kさん
環境で最初に思ったのは、20年ぐらい前なのですけど、オランダのシェルに訪問したことがあって。それは北海で事故が起きた時で、環境団体に突き上げられていました。日本だと事故があったら経済的な影響とかが言われるのですが、オランダだと環境団体や社会から問われシェルもその対応に非常に悩んでいました。その時IRの方と夕食を挟んで話し込んだのですが非常に日本と違うと思いました。今は日本もそうなりつつあるのですが、社会へのインパクト、自然へのインパクトを考えていかなければならない社会になりつつあるのだと、20年ぐらい前に非常に思いました。

MC
そうですね、オランダの投資家がよくおっしゃっていたのは、オランダの投資家が環境への意識が高いのは、消費者の意識が高いから、投資先の企業が必ず影響を受けるから、意識をもっていないといけないということを聞きますよね。

Kさん
そうですね。今やっぱり、お客さんに好かれるためにどうするのかと考えた場合、自然破壊をしているような会社だと受け入れられないということです。日本でもかつてはチッソとか、水俣とかあったわけですが、それからずっと環境に対してはいい国だととらえられてきましたが、もう今はそうではないのじゃないかということを振り返らないといけないと思っています。

MC
ありがとうございます。次はHさん

Hさん
上場株での投資ということで話しているので、それを踏まえて話すと、我々が行っている投資は“値段”が付いているということだと思うのです。それは“みんなの認識と同じであってはダメ”ということです。ただ環境に対しいいことをしている企業だからいいということにはならないし、彼らがやっていることが過少に評価されているとか、現状の悪い状況が過剰に織り込まれていて、それが再評価される可能性があるとか、そういったものがないと投資にはならないということだと思うのです。
そういう中で環境についていつも気にしているのは“目標設定が変わると結果がかわる”ということです。CO2を30%削減するというのと、50%削減するというのではかかる投資も変わってくるし、頑張って50%削減するよりも30%にしておいたほうが企業価値としてはポジティブかもしれない。これはキャッシュフローの最大化という観点から見た話です。規制がでてくるとトップランナーを評価しがちですが、必ずしもトップランナーになることの経済価値が高いわけじゃない。規制とか、投資のバランスをよく考えて投資しないといけないといつも思っています。
環境ってどの会社も目標を設定していてわかりやすいのですけど、だから簡単というわけではなく見極めが大事だと思っています。

MC
つまりHさんのおっしゃっていることを理解してみますと、まず環境って、取り組むことで自社の収益にプラスになるということと、リスクに対する対応みたいなものと2つあり、その中で、30%削減、50%削減とか、つまりいいインフラを入れるとか製法を変えてCo2出さないとかだけじゃなく、レギュレーション的な目標があってそれにあわせないといけない。そしてそれが途中で変わってしまうと、ストラテジー的な問題、設備投資の失敗などといったことがでてくる・・・ということですね?

Hさん
そうです。それともうひとつ何か起こったときは悪いことは織り込まれているので、その織り込み具合はどうか・・・そういうことが投資で重要になるということです。たとえば石炭ですが、最近では石炭というアセットの価値はゼロとかマイナスと言われているのですが、それ本当にゼロだと考えていいの?ということを考えていく。つまり方向性が良いかどうかだけでなく、投資ってそれが企業価値にどれだけおりこまれているかということを判断するわけなので。

MC
わかります。レギュレーターが“2030年30%とか2050年ゼロ”とかいうと、それにあわせて計画をたてます。でもその計画が非現実的だったり、大きな投資をし始めてから途中でレギュレーターの目標が変更されてしまったら問題がありますし、石炭のケースもみんなが“価値はゼロだ”と言っていても、そのターゲットが変わればゼロじゃないかもしれない、投資家としてはそういったことを見抜いていかなければならないから、単に“気候変動に対応しているからいいよね”というシンプルな判断じゃないということですね?

Hさん
そうですね。

MC
あとトップランナーになることの経済価値についてですが、これは気候変動対応を積極的に事業としてやっている場合だと思いますが、たとえば電池や水素を作りますとか言っていても本当に作れるのかみたいな、そういうようなこともありますか?

Hさん
そうですね、例えばどの方式がデファクトになるかわからない時とか、自分たちがトップランナーだよといってみたとしても、その製品などが適応しなくなるかもしれないし、それで頑張りすぎているとまずいということです。環境を良くするためのツールを提供する会社と、環境をよくするために頑張る会社があって、そのどちらかによっても変わるのですが、ゴールが変わると頑張りすぎていないほうがいい場合もあります。そのように“ゴールが動く”こともあると意識しながら投資する必要があります。

MC
そうすると、Hさん自身もそのレギュレーションやゴールに対し、投資先企業の対応がそれで良いかどうか分析しなければならないし、それに対しアセットオーナーが同じような理解でないと“これいいことやってるじゃないか”と言って困ったりして・・・

Hさん
それすごくあります・・・。たとえばここ数か月の相場では、環境に良くない会社の株ってすごく上がっていると思うのですよ。短期的には。なんでかというと、環境に良くないものを作っていたりすると、新たな設備投資が発生せず、しかし経済が回復してくると、新たな供給がなく、需要があがるので、価格が上がり利益がでるため株価が上がっちゃったりする。そういうことをいつも考えないといけないのです。

MC
なるほど、よくわかります。ではTさん、お二人が言ったことについてご意見ありますか?

Tさん
いやもう、本当に、よくわかります。我々はESG投資とインパクト投資って隣の畑でオーバーラップもしているので、いつの間にか一緒くたにして話してしまう事もある思うのですが、一緒に話すといけない部分もあり。たとえば前回人権については、A民族とB民族で違う価値観を持っていたりして難しい・・・という話をしたと思います。それに対し、比較的クライメートとか環境問題は人類共通だよねって思ってはいたんですが、それでも良く考えれば、そうではないケース、良し悪しが簡単にはいえないケースがあるなと感じました。

続く

上場株インパクト投資の研究 2章(6)

資産運用業界の仲間たちと一緒に、「インパクト投資を上場株に適用する」をテーマとして研究を始めました。スマートフォンアプリのClubhouse上で毎週様々なディスカッションを行っています。皆さまも是非ご参加ください。また本ブログではこの議論の内容をコンパクトにまとめて皆様にお送りします。

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本日、6月9日も、お昼の 12時30分より Clubhouse Meeting を行う予定です。

上場株式でインパクト投資 2章 3回下

2021年5月5 日

(このブログは毎週水曜日の12時からクラブハウスでオンエアしている“上場株でのインパクト投資”を綴ったものです)

Tさん
インパクト投資的には各論で話すのが正解なのかなと思います。ひとつは、さっき言ったようにユニクロがウイグル調達をやめてその分を価格に乗っけますと言っても消費者がそれを受け入れてくれるなら企業価値が変わらない可能性もあり、それを見極めて投資家は提言していくことが必要なのではないかなあと思いました。

MC
たぶんアセットマネージャーはそういうことが判断できるよう、多くの情報がないといけないですよね。たとえば日本の消費者は全然気にしないかもしれないけど、ある地域は非常に反応すると。グローバルなアパレル産業であればどの地域の売り上げが大きくて、どこの地域の反応が自社の事業にとってインパクトがあるかは経営者も考えなければならないでしょうし、投資家も一緒に議論していくなら同じように理解しながら進むしかない

Kさん
程度問題というのはもちろんあると思うし、それによって食べていくことができない人がでてしまったら、経済的に、社会的に問題だと思うのでそこをどう捉えていくか、非常に悩んでいるところだと思います。悩みながら考えていくというのが一番重要で、企業として悩んでこういう結論になったということであれば、それに納得ができればそれでいいし、あるいは投資を止めればいいと、私はそう思っています。

MC
日本では導入されていないけれど、ユニクロやH&Mも対応していると思いますが、いくつかの国でモダンスレーバリーアクトなどが導入されていて、企業としても人権についてはどう対応するか宣言しモニターをする体制になっていると思います。(その法律の影響がある)地域に多く投資しているアセットマネージャーと、そうじゃないアセットマネージャーの間には、もしかしたら少し将来に対する見積もりの仕方に差が出るかもしれないでしょうか?

Tさん
そうお思います。でも今の話し、面白くて、たぶん同じユニクロコットンについても日本とヨーロッパの消費者で全然違う反応が出ると思うのです。ひょっとしたらヨーロッパの消費者は日本ほど寛容ではないかもしれない。H&Mにとって、当然ユニクロもですが中国も大きな市場だと思うのですが、たぶん既存のお客さん、社会におけるブランドなどへの影響を考えているのでしょうね。

Kさん
やっぱり企業って、従業員がいて社会があって、そのバックグラウンドにある程度しばられていくでしょうし、それでいいのかなと思っています。

Hさん
ぼくからすると、企業がその考え方をしっかり説明しているということが大事で、そこの部分で会社のカルチャーとかがわかってくるじゃないですか。彼らがもともともっている長期のビジョンがあって、その中でいろいろなことが起こってくる、それで一つ一つ会社と話し合いながら“あ、こういう時この会社はこう考える会社なのだ”ってわかってくると思うんですよ。ぼくは一個一個の事象でどう判断するかまでは重視していなくて、その時どう考えて行ったかの積み重ねをトラックしていくことかなと思っています。

MC
そうですね。つまり企業とアセットマネージャーで向かい合った時、企業がどう思っているかを聞いて、考えが欠如していると思ったら、きちんと考えるように促していこうと思いますか?

Hさん
というか、そういう方針がない会社にはもともと投資しないわけです。普通はそういう考え方を確認してから投資するわけで・・・そういう考え方を持たなきゃいけないのですよとか、資本コスト考えなくちゃいけないのですよとか説明しなくていい会社に投資したいなと

MC
(笑)そうですね。前シリーズからつねにHさんは“いい会社”に投資するという方針でしたね。Kさんとかはどうですか。Kさんの投資方針はどちらかというと、できていない企業に教育する側だったかなと

Kさん
やっぱり企業も、国だって昔は奴隷貿易だってやっていたんですから、ずっと変わってきたと思うんです。まだまだ変わって行かなきゃいけないことはあると思いますし、それが変わっていけるように私たちは支援していけたらと思っています。

Tさん
これ難しいと思うのですよ。ともすればESG投資とまざってしまうし、ユニバーサルオーナーのパッシブの人とアクティブの人でいうこともちがうでしょうし。それぞれの立場によってわけて話していくステージに社会全体がきているように思います。これに比べGとかクライメートなどのほうがわかりやすいのかも。

MC
そうですね。GとEはだいぶ、日本と世界の違いも狭まってきたし、マーケット参加者の中でコンセンサスも得やすくなってきたと思いますが、Sはいまでも難しいかも。

Tさん
先行研究でみても、Sへのエンゲージメントは、ダウンサイドリスクを抑えるというか、なかなか実効性のある数値が見えにくいというのがあるようで、それって社会が違ったり、立場による違いがあるからだと思うのですが

Hさん
そもそも、コレクティブエンゲージメントで充分な議決権を持つ株主がまとまって社会とか環境をやったケースって過去ないと思うのですよ。

MC
環境はあるのじゃないのですかね?

Hさん
環境でもまとまって提案できて実際に達成されたことってほとんどないと思うのですけど、こういうことができたのは英国などでもガバナンスの極めて限られたイシューだけだと思うのです。社会なんかだと全員の意識を一致させるのが難しいからだと思うのです。

MC
インパクト投資のテーマでもSに関わる事はまだ多くはないかもしれませんね。

Kさん
でもコンゴの問題とかやりやすかったかも。他には資源とか。

MC
いつもきてくださっている方からご質問がきました。ミャンマーについてはどう思いますか?もし投資先が関係していてご意見があれば。進出しているとか従業員の安全とか。

Tさん
ちょっと思い当たらないのですが、同じコンテキストでいうと現状の軍政権下のミャンマーで事業をやっていて・・・ということですよね。

MC
そうですね、海外であった議論はまず収益が軍政権に行くことをどう考えるか、または現地子会社で操業を続ける場合従業員の安全はとか。一方ミャンマーの人々の生活に影響がないように、その部分は継続して操業するという会社もありましたね。

Tさん
今エスカレートしている状況に対してぼくらが何をできるかということがありますが、こうなる可能性がある国・地域に投資をしてオペレーションをするのかは初期的にも考えておかなければならないんですよね。

MC
そうですね、リスクをどう考えるかという問題があります。多くのインパクト投資と言われているものは途上国とか、新興国で行われている事業も多いと思うので、何かあった時にビビッドに反応できるアンテナが必要かも。

Tさん
そうですね・・・これはインパクト投資ではなく、純投資としては、リスクを考える上で、初期的にミャンマーはコンシャスになると思いますけれど・・・マネージャーとしてのリスク管理上考えておくべきだと思ったと思います。でもわからないですね。すごく自分たちが狙っている社会的課題を解決する企業がいて、そこがミャンマーから物をたくさん仕入れていて、その利益が軍部を潤わしていると、こうなってきた時どうするのかという議論ですよね。それはどうなのだろうなあ・・・。マネージャーとして声を上げるべきかということか。

Kさん
ミャンマーについては、ミャンマーに対するリスクをどうとるのかということは(企業の経営者に)聞いてみるべきだと思っています。経営者は何らかの判断をしていると思うので、それが納得できるならそれでいいと思います。でも逃げるのはよくないかなと。

Hさん
ミャンマーを含めて、今なら“投資しない”とか言えるかもしれないけど、昔からずっと投資している会社さんがあった時、その人たちがどう考え、今どうオペレーションしているかを常にコミュニケーションしながら理解しあって、その会社のカルチャーを含めて理解していくということだと思うのですよね。一個一個どう対応すべきかという答えがあんまりなくて、“この会社だからこういうふうに対応しているのだな”というのを一つ一つ納得していくというのが僕のスタンスです。

Tさん
今日は言いたいことが大体言えたと思います。ただ投資をするうえでフィロソフィーとかプリンシパルとか必要だと思うけど、最後は受託者責任が果たせるかだと思うので、その投資判断に自分のお金がかけられるかどうかが大事だと思うのです。よくグリーンウオッシュとかレインボーウオッシュとかいわれますけど、マネージャーが自分のお金を入れているかどうかが試金石な気がして。

MC
ありがとうございました。これでシリーズ2を終わりにします。来週からはシリーズ3です。またクラブハウスでお会いしましょう。

続く

上場株インパクト投資の研究 2章(5)

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次回、6月9日も、お昼の 12時30分より Clubhouse Meeting を行う予定です。

上場株式でインパクト投資 2章 第3回上

2021年5月5日

(このブログは毎週水曜日のクラブハウスでオンエアしている“上場株でのインパクト投資”を綴ったものです)

MC
今日は、シリーズ2章の最終回として、第2回の続き、人権について話してみたいと思います。前回は一人足りなかったので、“閑話休題”的にこれまでの振り返りをしました。ですから二週間たちましたが、あれからどうですか、少し時間がたって、ウイグルのユニクロに投資していたら投資家としてどう考えたか・・・ご意見をお聞きできますか?

Tさん
難しい問題ですよね。2週間考えていたのですけど、極めてこの会のタイトルである“上場株でのインパクト投資”に対するチャレンジというか、未公開ステージやチャリティーなど、イシュードリブンで投資されている小さいところなどだとこういう問題は起きないと思うのですよ。一方社会的インパクトの大きさなどで“上場株で投資すべき”と私は思ってきたので、これは上場株ならではの課題だと感じます。インパクト投資を定義する時、アウトカムとしっかり結びつけて、リターンに結び付けて、KPIを管理していくという手法が前提となるなかで、環境なんかですとやりやすいけど人権問題はそもそもKPIたてづらい。
そこにインパクト投資の観点でコメントしていいのか。ただ最終的には自分たちが投資をするにあたり目指していたありたい未来、成立してほしいアウトカムに対し妨げるものではないのかどうか。KPIを例えばSASBみたいなもので見ていた時、それを妨げるかどうかという視点で投資をしていけば良いのじゃないかと思っていて、もともとのアウトカムを達成させるエンゲージメントを続け、新たに出てきた問題がそれを損ねるのかどうかにフォーカスしていくのがインパクト投資としては正しいのではないかと、いまいまは思っています。

MC
ありがとうございます。続けて聞いていきましょう。Kさんはいかがですか?

Kさん
私は実はTさんがおっしゃったことに異論があって、はじめに設定したものに固執していていいのだろうかと思ったのです。世の中って変わっていってコロナ・ウイルスが発生したり隕石が飛んできたり、いろいろ変わっていく中で、自分の立場も変わっていくものではないかと感じています。最初に設定したものも大事だと思うし、お客様にも約束もしているわけなので、新たな課題が出てきた時どうしていくか、ファンドマネージャーとして考えていかざるを得ないと思っています。そうした中で自分の立ち位置はどうなのか、人権問題についてこういう立ち位置をとりますよということについて、考え直す必要があるのだと思います。そしてクライアントとはその都度議論をしていく必要があると思っています。そうでないと、何か起きた時にクライアントからの突き上げあるいは環境団体からの突き上げもあるかもしれない。そういう時“私たちはこうしているのだ”ということをしっかり言えないとまずいかなと思います。

MC
ありがとうございます。ではHさんお願いします。

Hさん
うーん、ファーストリテーリングについていうなら、人権ということについて彼らはもうすでにしっかりとした理念があり、目標設定を行ない、ひとつひとつの成果を確認しながら実行していると思っています。ウイグルだけじゃなく、人権の問題、女性の権利などいろいろなことをいろいろな地域で違ったレベルでおきていて、それらひとつひとつに対ししっかりと取り組みをしていると思います。またそれらを投資家だけでなく消費者にもかわるように、店頭にも置いてある“服の力”という書物で説明しています。彼らが考えるインパクトとはとても長期的だと思います。その途上でウイグルのようなことが出てきた時、しっかり考えた上でディスクロし議論を深めていくのだと思います。

MC
ありがとうございます。三人とも二週間前おっしゃったことより、とてもよくわかりました。

Tさん
(苦笑)あのKさんがおっしゃったように、そもそもぼくたちが投資先に期待していた社会インパクトを強めるとともに、ネガティブなことが出てきているのであれば、そのネガティブな面を少しでも緩和するというのは最低限やるべきことだと思うのですよね。ただいわゆるESG投資という一つの流れが出てきていて、その中、上場株でインパクトをやっていこうという時に、このクラブハウスでのシリーズを始めてからすこしづつ確信が強まっているのですけど、ESG投資ってみんなが共通してもてる“ありたい社会”とかありたい未来がある程度明確に入っていると感じていて、でも僕たちがマンデートをもっていて、インパクト投資を上場株でやっていこうとする時は、“もう少しナローダウンした個別のありたい未来”があるように思うのです。それを損ねない限りは、目くじらをたてずに実質的に判断すれば良いのじゃないかと・・・たとえば今回のウイグルではH&Mは明確にウイグル批判をしているみたいなのですよね。それに対しユニクロさんは自分たちのサプライチェーンマネジメント上問題は感じていないと言っていて、ぼくもユニクロの姿勢は正しいのではないかと思っているところがあります。

MC
あの・・・この2つの会社をどういう人が持っているかにもよると思うのですけど、もしこれらの会社に社会におけるインパクトなどにフォーカスして投資している人がいたとして、前回まで話してきたことから考えると、最近のインパクト投資と言われているものがアセットオーナーとアセットマネージャーの間の理解とかを高めている・・・という話をしてきたじゃないですか?だからアセットオーナーが誰かと言うのは大きいのじゃないかと思います。人権の問題はメーケット全体で答えも一つにならない時があると思います。世の中で利用可能な情報も均質化してませし、地域によっては同じ事象が即座に問題視されたり、他の地域からは他の見え方がなされていたりということもあると思います。
そうするとアセットマネージャーはそういうコミュニケーションをおのずとしなければならないと言えるのではないでしょうか。

Tさん
そうだと思います

Hさん
ただアセットオーナーも皆それぞれ違います。従って、その場その場でそれぞれに合わせていると、自分たちの運用の理念が壊れてしまう。つまり軸がなくなってしまう。したがって、必ずしも合わせられないと思います。大きな運用会社の場合、そもそも運用哲学自体が大まかなものになっているのである程度あわせるということをしていけると思いますが、ブティックになればなるほど自分たちの運用哲学が大事です。また特に、こういう特殊な状況にスペシフィックに対応しなければならない場合は、アセットオーナーの意見はみんな違い、先ほどのESGのところで最大公約数という話がでましたが、最大公約数に合わせることはできるかもしれませんが、運用の肝の部分になると難しい部分があります。

Tさん
そうですよね。ゆえに最初の“ありたい未来”合わせがすごく大切なのかなと思います。

MCさん
あわせるというか、コミュニケーションが必要なのでは。この問題って人権問題だけじゃなくて、たとえばいざ株主提案などが増え、アセットマネージャー、アセットオーナーで意見を合わせなければならない場面って増えていると思うのですね。

Tさん
結構考えたんですよ、二週間。かみさんと娘と、ご近所の同じマンションの奥さんに聞いたんですよ。ウイグルの綿をユニクロが使っていたら買うのをやめますか?って。そしたら“別に構わない。買います”というのです。“でもひどいことをしているかもしれないのですよ。ところでユニクロが人権を優先してウイグルの綿を使うのをやめて値段があがったらどうします?”って聞いたら“それは良い事だし、少しの値段上昇ならそれでも買います”って。

続く

上場株インパクト投資の研究 2章(幕間)

資産運用業界の仲間たちと一緒に、「インパクト投資を上場株に適用する」をテーマとして研究を始めました。スマートフォンアプリのClubhouse上で毎週様々なディスカッションを行っています。皆さまも是非ご参加ください。また本ブログではこの議論の内容をコンパクトにまとめて皆様にお送りします。

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次回、5月26日は時間を30分遅らせて、お昼の 12時30分より Clubhouse Meeting を行う予定です。

上場株式でインパクト投資 2章 幕間

2021年4月28 日 12:00~ 12:30

(このブログは毎週水曜日の12時からクラブハウスでオンエアしている“上場株でのインパクト投資”を綴ったものです)

MC
今日は、いつものメンバーが一人いないので、前回の続きは次回にして、ちょっと振り返りをしてみたいと思います。前シリーズでは1回目で「インパクト投資をどう思うか」という点をご自身の投資の考え方とリンクさせて語っていただきました。Tさんは社会の問題とその解決を投資テーマとして取り上げてきた、ということでした。今日いないHさんは「一社一社のテーマを拾っていくと、その中で社会をよくするとかインパクトとなることがある」ということでした。ですから、投資をする前にそのテーマを選んでしまうわけではないということでしたね。Kさんは「ネガティブなインパクトを避けることに取り組んできた」とおっしゃったと思います。では、ここまで過去6回話してきて、振り返ってみてどうでしょう。新たに思ったことなどありますか?

Tさん
いや、ここで皆さんと話させていただいて、投資に向き合う姿勢を見つめ直すようなプロセスになったなあと思って、ありがたく思います。そういう意味では変わらないのですが、少しクリアになってきたのは、長期のスパンの個別の企業にベッドしていく投資というのは、社会の強い流れのようなものにもベッドしていて、その流れの中で変化を加速させていくと考えていたのですが、改めて思ったのは、様々な「あったらいい未来」、そこでリターンが得られる投資がある中で、「ありたい未来」を共有できる人と取り組むという点が重要なのかなと思いました。ここでの話を最近はアセットオーナーさんと話すときもちょっと引用したりして。そうすると「自分が思っている社会の課題意識は共有できるが、アセットオーナーとしてトッププライオリティで取り組むべきかどうか考えている」というようなお話を聞けたりして。

MC
そうですね。以前はそういうことは多くなかったのじゃないかと思いますが、最近のながれでは社会の課題も、目指すべきところをアセットオーナーと話すようになったというのはよく聞きますよね。特にこのインパクト投資では。ではKさん

Kさん
そうですね。やっぱり共通のゴールを目指せる人と走るというのが、オーナーもマネージャーも安心してウイン・ウインでできると思うんです。だからお互い考えていることをクリアにして、共通のゴールを目指していくのが健全な姿だと思います。今までそういう対話というのは、あまりなかったと思うのです。リターンが選べればいいじゃん、過去3年間で一番リターンが多かったところに預ける・・・みたいな。でも過去が未来につながるわけじゃないので、将来をこう考えていますよというのを一緒に考えられるほうが。
それと投資先に対して、ESGとインパクトってだいぶ違うなと思いました。ESGはいいところに投資しようみたいな感じですが、インパクトは応援できるところに投資しますっていうことなんだなと思うようになりました。

MC
ありがとうございます。そうなんですよね。最近の流れで、重要なのはアセットオーナーとアセットマネージャーで共通の未来をみていくというところかなと。
ただその後、第一シリーズの最終回で、ではアセットマネージャーが企業に対し実際変化を起こさせていくかアセットオーナーに説明する際、「俺が企業をこうさせた」という、「企業にインパクトを起こさせているのは自分だ」という「俺させ」詐欺が出現するのを心配されていたTさんに、ご自身が企業に起こさせている変化との違いについて、お伺いできますでしょうか。

Tさん
いやその・・・言葉尻をとらえてきますねー。いや過去にやってきたエンゲージメントでも、増配をして株価があがった会社があって、その企業の人と話してたんですが、相手の方が“あの増配は俺がさせたんだ”、とおっしゃっている投資家の方がいて・・・なんだかなあと思っていると。見て明らかなテーマは、共同エンゲージメントではないけれど、いろいろな人が言うことによって会社も納得して変化が起きる・・・でもこれって誰が働きかけたかとか、特定するのは難しいと思うのです。
やっぱりその因果関係は、規模が小さくてインパクトが特定されていて、“株価”というのがつかない投資の方が分かりやすい・・・逆に言えばエンゲージメントの企業が実現するインパクトとの因果関係は見えにくいなあと。これから「俺させ」インパクトって増えそうで・・・特にクライメート系は、汎用性が高いのでインパクトにどう本当に関わっていけるのか。

MCさん
ありがとうございます。もう一つ。シリーズ1の3回目でアセットオーナーにどう説明しているか、という議論の時Kさんが、アセットオーナーの関与について面白いコメントをされていました。今の話でもあるように“俺させ”詐欺を見抜くためにはある程度アセットオーナーも関与してもらうしかないように思うんですけど、Kさんあの時“アセットオーナーはあまり関与しなくてもいいと思う、アセットマネージャーを信じてくれれば”というようなコメントをされていましたね

Kさん
いや、あれは、アセットオーナーがいろいろ考えているのであれば、直接自分でエンゲージメントすればいいという意味で・・でも日本の場合なかなかできないと思います。公的年金とか・・・その場合はアセットマネージャーを信じて預ければいいと思うのです。あんまり箸の上げ下げまで突っ込んでくるのはおかしいんじゃないかなと思ったのです。たしかに“俺させ”詐欺は問題かもしれないけれど、悩ましいですね。“増配したと言ってもあなただけが言ったわけじゃないでしょ”っていうのは、みな分かってることですよね。でも“私も言ったんです”って言わないと・・・その人の時間はなんだったの?ということになるし、アセットマネージャーが言うインセンティブが無くなったら困るし・・・。言ってもいいんじゃないかなと。

Tさん
これってアセット・オーナーとアセットマネージャーが共に成熟していかなければならないところなのでしょうけれど、アセットマネージャーの何を評価するのか・・・インパクト投資でインパクトを起こすような企業をみつける目利き力なのか、インパクトを実現するエンゲージメント力なのか。

Kさん
でも自分がアセットオーナーだったら、何をアセットマネージャーに聞けばいいんだろうか。たとえばたまたま配当上がったかもしれないけど、“この会社がなぜ配当が上がる必要があると思いましたか”とか聞いて、答えられないようなアセットマネージャーだったら、やっぱりそれは「俺させ詐欺」かな。その会社が今増配することが将来価値にちゃんと貢献するとか言えればいいのかも。

MC
それは正しい気がします。ただインパクト投資の場合、インパクトのシナリオ、達成したい価値を持っているのがアセットオーナーであるかどうかが重要で、その場合何人のアセットマネージャーが企業に対し同じエンゲージメントしてくれてもいいのかもしれない。アセットマネージャー側としては、自分により多く頼ってくれた方が、インパクトの実現がしやすいと説明しないといけないのかなと。で、アセットオーナーの問題は、みんなが「俺させ詐欺」で誰も結局ちゃんとエンゲージメントしていなくて、インパクトが起きない時なのかな。

Tさん
でもみんなが言っても結果がでなかったらどっちでもいいのかも。

Kさん
一つ言いたいのは、一人の力よりみんなの力だと思うんです。「俺させ詐欺」の人もみんなで・・・。

MC
ではもうひとつ。第2シリーズが始まってから、“上場株投資の方がインパクト投資という意味ではやりやすい”という意見が出たと思います。Hさんから、将来のインパクトがしっかり示せれていれば、その実現までに費用がかかって利益がでなくても株価には影響がないはずだ、だからインパクト投資のような期間のかかることに対して、上場株のほうが投資しやすい理由だということでした。そうしたらKさんから“理論的にはそうだけど、現在の企業の開示からはそれほどうまくいくとは思えず、市場の価格発見機能はそれほどワークしないだろう、という話がありました。とはいってもそのような企業の変化はパフォーマンスの源泉だ、という意見がありました。Kさん、今はどう思いますか?

Kさん
うん・・上場企業でも非上場でも企業価値を図ることはできると思いますが、開示だけを見ているわけではないというのもありますし・・・。アクティブマネージャーとしては・・・開示だけで判断するわけではないというか。

MC
お気持ちはわからないわけではないのですが、一応市場と開示の関係としましては、株価が将来の企業価値を反映するよう開示しろと言わないといけないのでは

Tさん
ぼくはマーケット教なので・・・ある程度時間がかかれば企業価値は発見されていくんじゃないでしょうか。だからぼくは上場株市場って尊敬しているんですけど。ただコンピュテンシーモデルじゃないですけど、今まで何にもしてなかった企業がいきなり“開示”しても市場はそれを信じないと思うんですよ。Kさんが仰っているのはそういう意味では。
ただ一方では前倒しで節操なく価格に折り込まれることもあると思うし・・・。ここのところいろいろなセミナーでていて、セルサイドアナリストの方がESGレーティングを一生懸命話してくれるんですが、ちょっと前まで四半期のEPSについて話していたのに・・・。MSCIの指数に入れるのはこの企業です、なんて強調して。これが上場株のまずいところかなと。本質な価値が受給要因で動いちゃう。

MC
Kさんの話に言いそびれたんですが、前回までの議論では、上場株の良さは、ずっと株価が将来の価値を反映していれば、アセットオーナーの投資期間とあっていなくても投資できる、インパクト実現前でも株価が動いていなければアセットオーナーはイグジットできるということだったかと思いますがどうでしょう。変な話アセットオーナー一人一人の投資期間がすごく短くても。

Kさん
それはそうかもしれない。だけれど、今の株価が将来の価値を反映している“だけ”ではつまらない。それを変える力があるのがインパクト投資の投資家で、その期待があるからそのマネージャーをえらぶんじゃないでしょうか。

MC
ありがとうございます。では閑話休題の“振り返り”はこれくらいで。次回はまた、人権のところに戻りましょう。

続く

上場株インパクト投資の研究 2章(4)

資産運用業界の仲間たちと一緒に、「インパクト投資を上場株に適用する」をテーマとして研究を始めました。スマートフォンアプリのClubhouse上で毎週様々なディスカッションを行っています。皆さまも是非ご参加ください。また本ブログではこの議論の内容をコンパクトにまとめて皆様にお送りします。

リンク:「上場株でのインパクト投資」常設クラブ(Clubhouse内)

次回、5月12日はメンバー都合により時間を30分送らせて、お昼の 12時30分より Clubhouse Meeting を行う予定です。

上場株式でインパクト投資 2章 第二回下

2021年4月21日 12:00~12:30

(このブログは毎週水曜日の12時からクラブハウスでオンエアしている“上場株でのインパクト投資”を綴ったものです)

Hさん
ぼくはちょっと違います。(それまでのやりとりとは<ブログ11のURL>参照)企業の経営者は個人的な考えがあったとしても、企業のCEOとしての発言は企業に対してのものであると考えています。ウイグルの話とか、ジョージアの話とか何が正しいかが情報によって変わってしまう場合もあると思うので、リスクをとって話してしまっていいのかどうか・・・話さなくて済むのであれば話さなくて良いのじゃないかと思います。でもそこで何か対応しなければ、たとえばジョージアで工場の黒人の方が多く働いていて影響するとか、そういうダメージをどうやってコントロールするかということがあると思うので、あくまで自社の企業価値に対するインパクトを考えて発言するものだと思っています。その中でを自分たちで状況分析をすることが重要だと思います。そうすれば投資家は安心するのじゃないかと。

MC
投資家としては、投資先企業がこういうことに直面した時どう振る舞うべきだと思います?

Hさん
経営者にこちらのほうからプッシュすべきだと? たとえばファーストリテーリングについて柳井さんに何かいうべきだと?

MC
あるいは状況によると思いますが、たとえば、発言しなかったことによって業績へのインパクトなり将来への影響について考えさせるとか。

Hさん
発言してもしなくても、なんらかのインパクトがあると思いますけど。柳井さんのケースはそこに一線を張って喋らないようとしているのは経営者としての見識なんじゃないでしょうか。ファーストリテーリング一社で出来ることの限界も踏まえる必要があると思います。自分たちの中では差別的なことはしないとかできると思いますが、国の体制について何かできるかというとそうではないと思いますけど。

MC
確かにいろいろと難しい地域もあるかもしれませんが・・・。

Hさん
中国内では我々が持っているイメージと全く異なるイメージで捉えているかもしれない。ファーストリテーリングなどは事業をしているので我々がニュースで得ている情報処理もより現地の情報を持っているかもしれないし、それも踏まえて何が正しい情報で今世間の反応がどうなっているのかを判断した上で喋事を判断しなければならない。

MC
・・・でも本当に事業のことだけを考えた場合、中国内外の顧客のことを考えながら発言しなければいけない時もあるのでは。実際批判されたわけですしね。ではKさん

Kさん
投資家側の視点からいくと、ぼくはどちらでもいいかなと思います。投資家はポートフォリオを組んでいて、環境のことばかりやっている会社もあってもいいし、社会のことに取り組んでいる会社があってもいい、そういう会社が倒産していくとか悪い影響を与えることだけを避けてくれればいいかなと。全体的にはある程度リターンが得られ、そういったことにも考慮したポートフォリオが組めればいいかなと思っています。すべての会社が素晴らしい会社である必要はないのかもしれない。あとダノンの件なんかでも、会社がそうすることによってこういうメリットがありますよと、また社会にもメリットがありますよと道筋をしっかり示せなかったからいけないんじゃないかなと思っています。

MC
はい、ありがとうございます。もちろん地域によって消費者の反応はものすごく違うと思うのですが、前回からみなさんがおっしゃってきたように、将来にわたって消費者がどう思っているかを投資家が読み取り、それが株価に反映していくとなると、発言するかどうかはともかくとして、CEOに影響をきちんとウオッチして欲しいと、という投資家から求めるということはないのですか?

Kさん
投資家から求めるというより、投資をする以上開示して欲しいと思います。そして納得すれば投資家は投資するし・・・、ということだと思います。

Tさん
あの、ご質問は2つあって、ソーシャルインパクトのプロフィットをどう考えるんだというのもあると思うのですね。やっぱりESGテーマなるものを考慮しながら投資を行なっていくっていうのは、まさに今課題提起してもらったようなことを考えていくと、自分が投資を通じてこのインパクトを強化するお手伝いをしたい、それによってリターンを底上げするというロジックを持つべきだと思いますので、今の例に照らし合わせると、ウイルグルの事件に直面している企業があたえるソーシャルインパクトってなんだと考えた時、そこに注目して投資していたら、柳井さんの判断はインパクトを強めるのか、弱めるのかという軸で判断するべきですよね・・・

MC
そうです。何か起こった時少なくとも投資家として、経営者がこの問題を自社の事業に対しどう思っているかは聞くべきかと。そして対応をきちんとすれば企業価値もさらに上がるかもしれないし。

Tさん
そうですね・・そうなのです。ウイグルは難しいのですけど・・・。この市場から撤退しましょう、他に何か探しましょうとか理解し、一緒に考えていくのが仕事なのだろうなと思います。

ゲスト
なかなか、悩ましい問題なのでスパッとは割り切れないとおもうのですよ。ウイグルという市場から撤退しましょうといえば、そこで雇用機会を与えている点についてはどう考えるのかとかね。ウイグルの工場の中ではちゃんと人権を守っているという言い分もあるでしょう。だけど外に対して傍観者でいいのかとか。Hさんが言っていたみたいに、個人として発言したのか法人として発言したのかという問題なのだけど、個人として言ったってインパクトはないからそれはさておき、法人として発言する時、取締役会決議をとるのかとか。具体的なプロセスを考えると難しい。ジョージア州のデルタやコカコーラは発言前に取締役会決議をしています。だから人権問題はユニバーサルバリューだと考えて発言した方がいいという考え方もあるけれど、たとえばウォルマートが銃を自社の店では売らないと決断したのだけどそうすると銃賛成者はウォルマートでの買い物を控えるようになり、逆に民主党はたくさん買うとか意見が割れるものと割れないものというテーマがあります。状況によって変わるので原則を言いづらいかもしれないけど、少なくとも問題意識と何かあった時のプロセスを企業側も、投資家側も持っているべきかと。そして最後はフィデューシャル・デューティをどう考えるかという問題になってくると思います。社会的問題とリターンをどのようにバランスさせるかをあらかじめ言わないといけないでしょうし。まあ個別具体的に考えていくしかないと思っていますが。

MC
はい、ありがとうございます。やっぱり私としては、興味深いのは前回までみなさんがお話しされていたことと、整合しているかなんですね。ですので、仮にCEO“個人で”といって発言しても、報道では会社と切り離せませんから株価に影響したりするでしょう。そうするとみなさんも顧客との説明責任があるでしょうから、何らかのことをする必要があると思うのですね。また人権についてですが、上場企業は自社のポリシーを発表するように促されています。こういう事態の時のためだと思うのですが、企業側も日常的に言っていたことと何か起きた時に違うことをしていないか、違うことをしていれば、短期的な問題は気にしないとはいえ、なんらかのネガティブなインパクトがあるでしょう・・・

Kさん
我々がいうインパクトって、もうちょっと具体的なもので、今日のってソーシャルインパクトみたいなものが多いのですが、その部分って思想とか考え方みたいな影響すると思うので、ぼくらは考え方みたいなものには投資してないのですよ。

MC
いや、顧客の反応だと思うのですよね。その企業のフィロソフィーとかじゃなくて、あくまでも顧客の反応、収益の問題が問われているインパクトだと思うのですよね。

Kさん
そうなのですけど。そこのところについてウイグルのことが良い悪いとか、そういうことについては投資してないです。

MC
もちろんそうでしょう。

ゲスト
他にも社会に対するインパクトとしては、従業員のやる気とか、働きがい、プライドに繋がるケースもあります。

MC
それも同じで、思想をいいと思うか悪いとおもうかではなく、事業に影響があるかどうかなんですよね。インパクト投資、基本的に同じだと思います。思想ではなく。残念ながら時間です。一週間考えて来週もまたここからスタートしましょう!

続く