上場株インパクト投資の研究(2)

資産運用業界の仲間たちと一緒に、「インパクト投資を上場株に適用する」をテーマとして研究を始めました。スマートフォンアプリのClubhouse上で毎週様々なディスカッションを行っています。皆さまも是非ご参加ください。また本ブログではこの議論の内容をコンパクトにまとめて皆様にお送りします。

リンク:「上場株でのインパクト投資」常設クラブ(Clubhouse内)

4月7日もお昼12時より 第四回Clubhouse Meeting を行う予定です。

上場株式でインパクト投資 第一回(下)

2021年3月17日 12:00~12:30

(このブログは毎週水曜日の12時からクラブハウスでオンエアしている“上場株でのインパクト投資”を綴ったものです)

MC (野村総研/Chie Mitsuiさん)
みなさんの投資についての考え方をお聞きしまして、“インパクト投資”って伝統的な金融の役割そのものじゃん・・・というのは全くその通りだと思います。それでは、みなさん今一番“インパクトを起こしたい”と思っている分野ってなんでしょう?

Tさんの場合(Asuka Corporate Advisory / Yoshihiro Tanaka)
インパクトって本当はすごくイシュードリブンで、小さなところでしっかりインパクトを出していくというのが結構あると思うんですね。ただ自分は上場企業に投資しているので上場企業のスケーラビリティを勘案して、それよりは少し大きなインパクトを起こしていけることを考えていきたいです。では何を課題として選ぶかですが、今の日本の課題として、日本だけじゃないかもしれないのですが、どんどん住みづらい国になっている気がします。機会が平等でなかったり・・・でもそれって同時にビジネスチャンスにもなりうる訳で、こういう課題を解決するような投資をしていきたいと考えています。そして投資家がパートナーとして助言しインパクトを強化できるような事が出来れば・・・。

Kさんの場合( 元外資系アクティブファンドマネージャー Hiromitsu Kamata さん)
今私のお客さんなんかは、ヨーロッパの年金基金などですが、自分が(アセットマネージャーを通して)投資している企業全てのエミッション合計とか出すためにそれをアセットマージャーに開示しろといってきますし、かなりセンシティブになっていると思います。
そのような中で、積極的に投資したいというのと、積極的に投資したくない分野というのもあると思います。私が投資を始めた頃、サラ金にすごく苦労している人が周りにいて、
でも当時サラ金て非常に割安で。興味深かったんですが、いろいろ考えて、投資を止めました。やはり世の中に負の影響を与えているのであれば、そこに投資をしないというのも重要かなと思っています。

MC
その頃って、もう“タバコ・ダイベストメント”て、始まっていました?

Kさん
うーん、やはり欧州のお客さんなんかでは、タバコに投資するなというところ、ありましたね。私自身は嗜好品なので全部いけないとは思っていなかったのですが、このままだと将来の売り上げとか考えれば、やはり投資すべきじゃないなあと思いました。

Hさんの場合(現独立系投資顧問会社ファンドマネージャー Hiromitsu Kawakitaさん)
私はあんまり、こういうテーマで投資しようって設定しないのですね。でも長期投資という観点で、社会がこれからどういう風に変化するかということを考えて、その中で企業がどんな役割を果たしていけるかを常に考えることになるので、その中で社会でポジティブな方向にいっているかとか確認をします。大きなテーマ、水の問題とか、気候とかありますが、実際企業と話していると細かいテーマがありまして、その中に共通の課題がみえてくる・・・たとえば働き方をどういうふうに変えるかとか、やっぱりボトムアップの対話の中から出てくるテーマってあるんですよね。そういうのを細かくみていくのが私のやり方です

Tさん
日本のいくつかの社会課題って解決方法も一つじゃないですよね。共通してお互いに影響しあっていて、そういう課題を一つ解決する企業って、いろいろなことが解決できる気がする。

Hさん
似たような課題を持っている会社がいくつかあって、それぞれを同時にみていくと、いろいろ気がつくことがあるんです。こうやっていくと乗り越えていけるんだ、ということがわかってきて。

MC
そうすると、Tさんは大きなテーマ、Kさんはやるべきではない投資とは何かを考えてきた、Hさんはテーマを決めるよりボトムアップで、ひとつひとつの課題を解決していく・・・そんなふうにインパクトをみているんですね。そうすると

Tさん
大きいっていうか・・・例えば今感じているのは、日本において機会がすべての人に平等に与えられなくなってきているとかいうことなんかで。もう少し身近な例だとデジタルデバイドみたいなもので、ドコモに八千円払っている人がハッピーなのか、本当は格安携帯で十分なのによく知らないだけとか、それはIT教育やITサービスの開発なんかで解決していけるんじゃないか?とか自分も個別に考えているところもあるのですが・・・でもやっぱり最初は大きなテーマでみているのかな・・・

MC
そうですね。Tさんがデジタルデバイドをみるとき、それが世の中をどうやって変えていくかをみている・・・ということですね。これに対しHさんは決めずに掘り下げると・・・たまたまデジタル対応が問題だったりする・・・?

Hさん
そうです。例えば今の話だと、中小企業の中にはデジタル化に対応できないためにビジネスを逃しているところがいっぱいあって、で、そうすると今度は、そういう中小企業を助けるビジネスができてくる。彼らがどんな点を助けているか、何が中小企業から求められているかを考え、具体的に解決している企業を探すみたいな・・・、自分はそういうかたちで取り組んでいます。だから、どこで課題を見つけるかの見つけかたの違いかなと思います。本質的には同じになるような気がします。

MC
結局どういうふうに課題を見つけるかは異なれど、最終的に企業の価値を見つけるという投資家の役割は同じところにたどり着くと思うのですが、最初に戻って、このインパクト投資が欧州で流行って議論が高まっていった背景としては、アセットオーナーとアセットマネージャーの間で自分が何の社会的課題を解決したいと考えているかをわかりやすくするコミュニケーションの部分かなと思っています。このシリーズでは続けて“自分の投資をどうやってアセットオーナーに分かってもらうか”とか、“企業にもどうやって分かってもらうか”などを話していきたいと思いますが、まずは次回は、“上場企業への投資でインパクトってどうやって起こせるのか?”について話して見たいと思います。

続く

上場株インパクト投資の研究(1)

あっという間に過ぎた2020年を超えて2021年も4月に入ろうとしています。コロナ禍の拡大傾向はなかなか収まりませんが、良い意味での逆境への慣れか、様々な新しい投資アイデアについてのディスカッションの依頼を頂くケースが増えてきたように思います。当社でも資産運用業界の仲間たちと一緒に、「インパクト投資を上場株に適用する」をテーマとして研究を始めました。スマートフォンアプリのClubhouse上で毎週様々なディスカッションを行っています。皆さまも是非ご参加ください。また本ブログではこの議論の内容をコンパクトにまとめて皆様にお送りします。

リンク:「上場株でのインパクト投資」常設クラブ(Clubhouse内)

3月31日もお昼12時より 第三回Clubhouse Meeting を行う予定です。

Clubhouse Meeting 「上場株でのインパクト投資」第一回

2021年3月17日 12:00~12:30

(これは毎週水曜日の12時からクラブハウスでオンエアしている“上場株でのインパクト投資”を綴ったものです)

MC (野村総研/Chie Mitsuiさん)
欧州でここ4,5年インパクト投資の議論がとても盛り上がっています。特にEUでは“全ての資金はグリーンへ”みたいな勢いで、気候変動に対応するイノベーションとか、事業に関わっている上場企業への投資も投資という勢いの中で「上場企業でインパクト投資」が話題に上るようになりました。それで「これ絶対日本でもっと導入されないかな」と思って周りのアクティブマネージャーをけしかけてきました。この何人かで集まって、週に一度、クラブハウスで投資について考えてみたいと思います。
ただインパクト投資というのは、昔から概念はあって実際取り組まれていたものの、ここ数年急速に取り組みが拡大し、そこで定義や評価方法が整備されてきていますが、今も解釈は様々だと思います。ですので、ここでは世の中の定義にはあまり縛られず、「どんな投資がありえるのか」について議論していきたいと思います。
さて、インパクト投資って突然でてきたものじゃなくて、こんなの前からやっていたと言う人もいると思うのです。インパクト投資ってなんだと思いますか?

Tさんの場合(Asuka Corporate Advisory / Yoshihiro Tanaka)
金融の世界に30年関わっています。今は上場企業の中小型に投資をしていて、ただ投資をするのではなくエンゲージメントを通して企業価値をあげることを目指しています。
インパクト投資って難しいですよね。ものの本とか読んでいて今思っているのは、“ありたい社会”というのを想定して、それに対して積極的に働きかけて実現させていく、そんなもんじゃないかと思っているです。それを専門用語で言えば、“アウトカム”を創るとか、そう言うことなんだろうなと思っています。ただ自分自身がおもっているのは金融自身が胡散臭くなっちゃったのはここ30年ぐらいで、もともと信用創造を通じて社会に貢献していくっていうのは、本当は昔銀行にはあったと思うのです。だからこれは金融の本来の目的というか・・・ただその頃は、やはり長期に社会がどうなるかっていうことを予想して投資をしていく、ということはったのですが、“ありたい社会をどう作っていくか、それにどう積極的にかかわっていくか”というのはそんなにはなかったかも・・・。

Kさんの場合( 元外資系アクティブファンドマネージャー Hiromitsu Kamata さん)
私も30年以上株をやっています。私もTさんのいうとおりだと思います。それでも80年代はまだ、新しいもの、芸術などにもお金がまわっていましたよね。なんでその後おかしくなったかというと、その後金融機関が生き残るのが大変になってちょっと変わってきちゃったのかなと思います。でも今ある程度生き残って、また社会貢献とか考えれるところに戻ってきたんじゃないかなと思うんですけど。私が思っていたのは、「そのビジネスは世界を幸せにしているか?」で私の投資先が、少しでも世の中をよくしているかを常に心の中に持ちながら投資していく必要があるかなと思っています。

MC
そうですね、ヨーロッパのアセットオーナーを回っていると、私の世代から見ると、ちょっと驚くほどまじめに“世界を良くしたい”という思いを語られますよね。そのオーナーが、自分が委託しているすべてのアセットマネージャーにも同じ方向を向いて投資して欲しい、たとえばヨーロッパだとグリーンの投資をして欲しい、というアセットオーナーが、インパクト投資として上場株も同じ分野で力をいれて欲しい・・・というケースをみかけ、「こういう思いをもっている日本のアセットマネージャーもけっこういる!もっと日本人アセットマネージャーはインパクト投資に興味を持つべき」と思ったのです。

Hさんの場合(現独立系投資顧問会社ファンドマネージャー Hiromitsu Kawakitaさん)
私もお二人ほどじゃないけど長く日本株投資をしています。ESGやインパクト投資で有名なお客さんがいてその人たちといろいろ話してきました。そこで感じてきたのは、日本では長期の視点で分析していても、実際はなかなか長期にならないことが多く、日本でももっと根付かせたいなと思っています。
自分はインパクト投資は社会にプラスの変化をもたらす企業への投資だと思っています。短期的にみればうまくやっているなという事業はあっても最終的には多くの人から喜ばれる、社会にプラスの変化をもたらすものでなければ成長し続けることはないと思っています。

MC
そうですね欧州でアセットオーナーが旗をふって“インパクト投資”と言っているケースではご自身がゴールを設定していて、このゴールにあわせて、インパクト投資してくれるアセットマネージャーは手をあげてください、みたいなコミュニケーションをみかけます。数年前、オランダのPGGMとAPGは、共同でインパクトゴールのタクソノミを発表しました。もとはSDGsの中のいくつかのカテゴリで、たとえば貧困をなくすだったら、自分たちが注目しているのは、マイクロファイナンスです、とかタクソノミの小項目に書き込まれています。飢餓をなくすのところには、たとえばフレッシュな食べ物のローカルアクセスの事業とか。そういう風に自分たちが注目しているインパクトを示して、同時にアセットマネージャーだけでなく、企業にも伝えたいそうなんですね。それにアセットマネージャーが参加していくと、全体で大きな力になり、社会的な動きを促進するパワーになります。これは面白い仕掛けだなと思いました。SDGs17あればだいたいどっかに入るかなと思いますが、社会的にいいことしたいというのはなんとか拾ってもらえると思うので、アセットオーナーの考えと一致するところが見つかるといいのかもしれません。

では次回は、どんなところにインパクトを起こしたいと思っているかについて話して見たいと思います。

続く

上場株でのインパクト投資とは

いわゆる社会貢献を目標に取り込んだ投資の歴史は古く、1920年代の欧米で始まったSRI投資に始まり昨今では公募投信においてもESG投資が注目を集めつつあります。この中で比較的新しいインパクト投資はどう位置付けらえるのかという事に関心を持ち始められるアセットオーナー様も増えておられるように思います。

インパクト投資については、現在もその定義や手法を巡って議論が続いており、唯一無二の答えは見えていないというのが現状では無いかと理解しています、しかしその中でも、「インパクト投資」という言葉の生みの親であるロックフェラー財団を中心に創設されたGIIN(Global Impact Investing Network)は同投資における中心的存在と言えるでしょう。

同GIINによれば、インパクト投資とは”Impact investments are investments made with the intention to generate positive, measurable social and environmental impact alongside a financial return. Impact investments can be made in both emerging and developed markets, and target a range of returns from below market to market rate, depending on investors’ strategic goals.” 

すなわち「インパクト投資とはポジティブで計測可能な社会・環境インパクトを財務リターンと共に生み出すことを意図して行われる投資である。同投資は新興市場でも先進国市場でも取り組む事が出来るし、戦略によっては市場並み或いは市場以下のリターン等の一定のレンジを目標に取り組むことが出来る」と定義されています。

いささか乱暴なまとめ方かもしれませんが「あらかじめ社会インパクトを意識して、その中でリターンを生み出すことを前提として取り組まれる投資」という事で大きくは間違っていないでしょう。ESG投資を巡って、プロ投資家の受託者責任、すなわちESG投資はリターンを生み出すのか?という問いに対する答えが欧州と米国において異なるなど、やや宗教論的な様相を呈しているのに対して、明確にリターンの必要性を定めている点においてはよりストレートな投資手法であると言えるようにも思います。

さて、GIINが定めるインパクト投資の基本的な定義は上記のようにストレートなものではありますが、そのインパクト投資たる要件についてはさらに細かく定義されています。いわゆるインパクトウォッシュを避けるためであったり、その実効性を担保するためであったりと興味深く。機会があるようでしたらこのブログにおいて徐々にその内容についても触れていきたいとは思いますが、上出の投資家様とのディスカッションの中で感じ、また今回読者の方にご理解頂きたいのは、現在のインパクト投資におけるメインストリームが未公開株・債券(デット)であるという事。またそれに対して上場株のインパクト投資についてはほとんど手つかずの状態であるという事です。

元々が教会のチャリティー(慈善活動)のような形で始まり、比較的限定された地域や課題の解決と社会リターンの追求を目的に始まった投資であることから、そもそも投資を通じてどのような社会を実現させたいのか?(Theory of Change) 、特定された社会課題に対して資金の出し手がどのように関与(Intervention)し、どのような影響を与え、どのような成果(Outcome)を生じせしめるのか?またそれは合理的に説明可能なのか?(Logic Model) と言った哲学と活動に対するコミットメントが必要であり、一般的には市場から株式を買付け、一定期間の後にはそれを売却するという上場株投資の世界になじまないからではないか?というのが筆者の考えです。

それでは上場株を対象としたプロ投資家、個人投資家は株式投資を通じてこの流れに貢献することができないのでしょうか? 決してそんなことは無いというのが私の見解です。未公開株やデットを通じたインパクト投資が0から1を生んでいく投資であるならば、上場企業を対象にしたそれは、1を10や100に育てていく投資ではないかと考えています。特に世界でもまれにみる多くの企業が上場している日本の株式市場には、既に様々な分野で重要な社会インパクトを生み出している企業が存在しています。このインパクトを強化していく事こそが私達上場株投資に関わる投資家の今後の重要な責務の一つではないかと思います。

上場企業におけるインパクト投資を謳う投資の少なからざる部分は「社会的インパクトを生み出す企業にベットする」投資であって「投資を通じて社会的インパクトを強化する」投資足りえていない部分も多分に存在しています。しかし上場株投資において社会インパクトの強化を実現させる事は不可能ではありません。現に私達は過去において、多くの中小型株企業様と対話させて頂く中で、投資家発の提案を受け入れて頂くことで、成長が加速され、当該企業様が持つ優れた社会インパクトが強化される姿を見てきたからです。

投資先企業のインパクトという船に「乗る」投資から「共に船を漕ぐ」投資に視点を切り替えることで、上場株投資に取り組む機関投資家も十分にその社会インパクトを強化するお手伝いが出来るのではないでしょうか?

謹賀新年

2021年 今年も宜しくお願いいたします

あすかコーポレイトアドバイザリー 一同

2021年 年賀状

あすか新春セミナーを開催しました

1月9日(木)あすか新春セミナーを無事に終える事が出来ました。ご来場いただいた皆様、ご協力頂いた皆様。本当にありがとうございました。

三部構成のセミナーは、第一部においてSMBC日興証券のチーフ株式ストラテジストである圷正嗣様に2020年の市場環境と投資戦略についてお話頂きました。2020年にグローバルで見た日本市場の魅力度の高さやガバナンス改善により強化される日本企業の優位性についてお話頂くなど大変勇気づけられる内容でした。

第三部は元オリンピック日本代表の為末大様により「自分を知る」とのテーマでのご講演を頂きました。長い競技人生を通じて悩み、考え、ご自身で道を切り開いてこられたお言葉は強くそして優しく、投資との共通点も大変多かったです。

そして第二部は「多様化する対話型投資の現状と今後の展望について」とのアジェンダの下、株式会社ストラテジックキャピタルの丸木剛様、りそなアセットマネジメント株式会社の松原稔様、そして私によるパネルディスカッションを圷様にファシリテート頂きました。私自身も自分達が取り組むバリューアップ型のエンゲージメント投資についてお話をさせて頂きました。

第二部についてはセミナー後の参加者の方々とのお話しの中で「所謂投資先企業と対話を行うタイプの投資家ではあるものの、三者(社)三様のアプローチが大変対比的で面白かった」とのご感想を頂きました。主催者冥利に尽きるお言葉です。また同時に私自身は「投資に取り組む中で何をもって成果とするのか?」との圷様の問いに対して、三人のパネリストがそれぞれ迷うことなく「それは当然投資リターンです」と答えられていた事に勇気づけられました。

世の中で対話型の投資についての認知が高まりつつ反面、外部に対する説明責任も強化されつつあり、近春改定が予定されているスチュワードシップコードにおいてもサステイナビリティーとESGを軸としたエンゲージメントとその効果検証などが導入されることが見込まれています。

日本における運用の質を高めていくためにもこれらに真摯に対応していく事を心掛ける事は大切ですが、その結果として何を実現するのか?を見失わず、それぞれが信じる投資哲学の実行を通じてアセットオーナーが求めるリターンを追求しなければならない事をあらためて確認できました。

「あすか資産運用勉強会(大阪)」を終えて

12月23日「企業との対話がどう株式投資の効果に結びつくか」と銘打った勉強会を大阪・北浜の大阪証券取引所 北浜フォーラムで開催させて頂きました。内容としましては同月2日に東京で開催させて頂いた内容とほぼ同じものではありましたが、私達にとっては初の大阪での勉強会ということもあり緊張感をもって臨ませて頂きました。

第一部はスチュワードシップコード・コーポレートガバナンスコードからESG投資につながる一連の流れを整理し、第二部はエンゲージメント効果の計測手法、第三部・四部であすかのエンゲージメント手法のケーススタディーについてお話させていただくという構成でした。

当日は在大阪・京都・神戸のアセットオーナー各位にご参加頂き、いくつかの鋭いご質問を頂けました。「概念的には理解が進むものの、アセットオーナー各位にとっての真の投資意義については未だ明確には見えないESGを軸とした投資に、我々インベストメントマネージャーサイドがどのような解を提示できるのか?」 「私たち自身は肌感覚をもって体感しているエンゲージメントを通じた企業変革の実態をどのようアセットオーナーにコミュニケーションしていくべきなのか?」といった重要な視点でした。今後とも現場に携わる立場として、実体験に基づく知見を皆様にお返しできればと考えております。

この場を借りてお礼を申し上げると共に今後の弊社の取り組みにもご注目頂ければ幸いです。計5名で東京から伺いましたが、帰りは三々五々の散会となりました。メンバーの一人は新大阪でかねてよりの念願であった蓬莱の豚饅とシュウマイセットを購入し帰路に就いたようです。また伺います。

「あすか資産運用勉強会」を終えて

12月2日「企業との対話がどう株式投資の効果に結びつくか」と銘打った勉強会を日比谷図書館セミナールームで開催させて頂きました。敢えて小規模の会とさせて頂き、参加者の皆様と密にお話が出来ればと狭めの会場を押さえたのですが、結果として20名近い皆様に参加頂きました。折からの豪雨にも関わらず足をお運び頂いた皆様に心よりお礼を申し上げます。

限られた時間ではありましたが、スチュワードシップコード・ESG投資の現況、エンゲージメントの効果計測、企業様との対話手法とケーススタディーといったトピックスについて、それぞれの分野で実務に従事するメンバーが順番にお話をさせて頂く事が出来ました。

昨今注目が集まるエンゲージメント型投資ですが、外形的な情報に比して、実務面での情報は未だ少なく、実際のところ何をやっているのか?というお問い合わせも頂く事が増えて参りました。このような場を少しでも増やして投資家の皆様のお役に立てればと考えています。

この場を借りてお礼を申し上げると共に今後の弊社の取り組みにもご注目頂ければ幸いです。

京都大学様との共同セミナーを終えて

10月7日(月曜日)第六回となる、京都大学経営管理大学院様とあすかアセットマネジメント、弊社の共同セミナー『政策主導で規制が強化される企業ガバナンス』~企業と投資家はどう対応するべきか?~を無事終えることが出来ました。講師・パネリスト各位及びご参加頂いた皆様に心より感謝申し上げます。

今年は有価証券報告書の開示基準が強化される等コーポレートガバナンスを巡る環境整備にさらに一段の進化が見られたように感じています。ガバナンスを支えるための「器(うつわ)」が着々と準備される中で、それをより実効性あるものにするために当事者は何を考えるべきなのか?という点について、当日は現役の独立社外取締役、大手機関投資家のエンゲージメント担当者、そして弊社のメンバーという事なった立場の方々に、様々な議論をして頂く事が出来ました。参加者各位も勇気づけられたのではないでしょうか?

さて、その中で私が一つ強い印象を受けたのは、上出のエンゲージメントを担当されるパネリストの方が言及しておられた「議決権行使において株主が投じる票は企業の将来に対する影響を有している事を忘れてはならない」とのメッセージでした。例えば昨今増えつつある、海外のいわゆるアクティビスト型株主による提出議案についても。勿論株主提案であることを前提とした可否の判断はしないが、定款変更等については特に最新の注意を払っておられるとの事。何故ならば定款変更は企業としてのビジネスそのものに変化を与え、ひいては企業の将来に変化を与える可能性があるにも関わらずその議案に賛同した自分たちを含む株主が将来時点において株主である保証がないためだから。との事でした。

会社は誰のものか?とは永遠の問いであり、今回のコラムのみで語るにはいささか大きすぎるテーマですが、上出の「将来への責任」は、現在進みつつあるSDGs等のテーマとも相通じるものがあります。本件を巡っては所謂海外アクティビストによる株主提案に対する賛成票の低さを、日本市場の後進性の証左として語る論調も見られます。それぞれの立場や主張は異なって当然ですが、同パネリストの方のメッセージと同様に、私達は「その提案は合理的に考えて企業の将来キャッシュフロー≒現在の企業価値を強化するものか否か?」という視点で個別に判断するよう心がけています。逆に言うならば、企業の現時点における価値を取り合うのではなく、他の株主も喜んで同意したいと思えるような全体最適解を提案できる能力が株主にも求められるのではないかと感じています。精進致します。

企業開示とTSR(Total Share…

政府がリーダーシップを取って進めるコーポレートガバナンス改革が着々と進行しています。直近では今年1月に公布・施行された「企業内容等の開示に関する内閣府令の一部を改正する内閣府令」を通じて有価証券報告書における開示をより立体的に経営戦略と結び付けて行く方針が決まっています。これらの詳細については、多くの分析やまとめがある事から皆さんも目にしておられると思いますが。ここでは同内閣府令の中で開示が求められている「株主総利回り」、所謂TSR(Total Shareholder Return)について、私達が取組むエンゲージメント・バリューアップの現場からの見方をまとめてみたいと思います。

TSRとは、簡略化して述べれば、一定期間における株価の変動に同期間の配当を加えた、株主としての総合的なリターンを意味します。一般的には株式市場全体の動きにも左右されてしまう株価のみを軸とした評価に対して、企業側の自律的な行動である配当を加味する事で、企業側にとっても株主にとってもよりフェアな評価であると考えられているようです。開示のルールが変わる中、私達の普段の対話においても、関心を持たれる経営者の方が増えておられるように感じます。ガバナンス改革が進みつつある事の証左であり、日本の株式市場にとっても光明であると言えるのではないでしょうか? このような中、私達は経営者の皆様に「TSRを見る上では二つの事に気を付けて頂きたい」とお話ししています。

まず一つ、「過去を見る上では、結果としてのTSRだけでなく、その構成要素をよく吟味し、投資家と対話をして頂きたい」という事です。

平素私達は関与させて頂く企業様に、企業価値を高める努力をしてくださいとお願いし、そのための施策について議論をさせて頂いています。企業価値は理論的に算出できますが、これは市場で取引されている株価と一致するとは限りません。しかし長期的に見れば、株価は企業価値に収斂するはずです。よって株価はやはり企業にとっての通信簿であり体温計であると考えてよいのではないでしょうか。但し、この通信簿である株価と配当(TSR)を市場インデクスとの比較、同業他社との比較だけで語ってしまうと、総合点で優劣をつけるだけの共通テストと同様の弊害を生み出すリスクがあります。TSRは①キャピタルゲイン=利益成長(売上の変化×マージンの変化)×市場マルチプルの変化 と ②インカムゲイン=配当額+自社株買い(これは実は利益成長に入れるべきなのですが今は概念として②に入れています)に分解されます。私達は企業様との対話の中で、絶対的/相対的なTSRの違いが、どこから生まれてきているのかをお話しするように心がけています。TSRを要素分解する事で、企業経営上やり切れた事、やりきれなかった事、その代わりに努力した事、等が見えてきます。売り上げも利益もきちんと伸びているのにマルチプルが伸びていなければひょっとすると市場とのコミュニケーションが足りないのかもしれません。また、同業他社との比較で、マージンだけが劣後しているのならば、同社のオペレーションに何か問題があるのかもしれません。このように、TSRを要素分解する事で株価を軸に経営について事業家と投資家が意見を交わすことが可能になります。逆にTSRその物の比較、乃至は①・②の数字その物の比較であれば「株価が上がらないんだからせめて配当を出してほしい」という交わらない議論で終わってしまう可能性もあります。

二つ目は、「未来を語るにあたっては、上記の構成要素をさらに掘り下げて、経営戦略と併せて語って頂きたい」ということです。

TSRを軸にした議論にリスクがあるとすれば、「株主へのリターンを上げる事ができればどのような策をとってもいい」という議論に陥る要素を含んでいる事であると思います。例えば①の利益成長は、無理なコストカットによって達成する事も可能ですし、市場マルチプルは根拠の無い強気な利益予想で達成できるかもしれません。また、インカムゲインについても本来行うべき投資を犠牲にすれば従来以上の結果を残せる事になります。もちろんこれらの非合理的な経営戦略は長期には企業価値を棄損し、株価にも反映されるでしょうが比較的短期のTSRで見た場合は効果を生む戦術となり得ます。私達がお願いしたいのは、投資~回収~再投資という株式会社のサイクルの中で、EVAを生み続けられる質の高い経営をやって頂きたいという事です。バランスシートも含めた経営計画の結果として①・②それぞれのパラメーターの改善が語られるならばそれは非常に説得力がありますし長期に亘って投資を行いたいと思える対象となり得るのではないでしょうか?換言すれば短期のTSRにとらわれることなく、長期的な株主価値創出の観点からTSRを使って頂きたいという事です。

進みつつある開示の改善に対して、投資家として大いに期待すると共に、企業様にとっては労力の増加が見込まれる変化である事も良く理解できます。せっかくの試みを双方の取組みにより有効に使えるようにしたいものです。私達も、普段のエンゲージメント活動を通じて、そのお手伝いが出来ればと考えています。